「いいけどさ……」
千歩は不貞腐れたような言い方をしながらも秋人の顔をチラリと見た。
こんな定時時刻から二人きりでいられるなんて久しぶり。
秋人が日本に戻ってきたとはいえ、こんな時間は無かったから。
千歩の視界がスーツ姿の秋人の広い背中を捉えた。
彼のスッと伸びた背筋が千歩は昔から大好きだった。
千歩はタタタッと二、三歩小走りすると「お帰りなさい」と声を掛けて彼の背中に抱きしめようと手をのばす。
「おでん買ってきたのか。NYには無いからかなり懐かしい」
秋人はサッと体を翻してダイニングテーブルのおでんに向かった。
彼の興味は出汁の香りが漂うおでんに完全に持って行かれてしまった。
抱擁を空ぶった千歩の両腕は手持ち無沙汰でプルプルしている。



