ちろり、レジ越しにヒト科を見やる。


そこにはいつもと変わらぬ、よれたスウェットに健康サンダル、ボサボサヘアー、無精髭。

ただその姿に、きっと手編みの暖かそうな赤いマフラーと黒いオイルの付いた軍手が存在していた。



いつもより少しは防寒をしているようだけど、それでも寒くないのかとヒト科を見て思う。首元にある、そのマフラーはとても暖かそうだけど。



「これなー、近所のばあさんに貰ったんだよ」

「人の心のなか勝手に読むなよ」

「いやあ、座布団さんきゅーっつったら親切にマフラーまで編んでくれてよー」

「別に聞いてないんだけど」

「ホラ、見ろよこれ。ここに丁寧に俺のイニシャルまで」

「別に見せてくれとか頼んでないんだけど」

「だからってヤキモチ妬くなよ、いろは。 俺の心はもう既にお前のものだ」

「史上最大級に気持ち悪いセリフどうもありがとうございましたあああ!!」



無駄にキメ顔でわたしの両手を包み込むように握ったヒト科に、ぐっと眉間にシワを寄せて睨み上げる。


お姉さんの上目遣いゲットー、なんて調子のいいことをほざくから、解けない両手のままヒト科の顔面にパンチを埋めてやった。



「つーことで、事務所で待ってるから早く来てネ」

「ウインクやめろ。 あと待たなくていい。お願いだから帰ってクダサイ」

「てんちょー!事務所の鍵くれ!」



店長がヒト科に脅されしぶしぶポケットから鍵を出す様子を見て、嗚呼、今日も主導権はヒト科だなと思った。