「チッ、なんだてめぇか」
「なんだ、じゃないですよ。浬さんの所為で歩きまわらなきゃいけないこっちの身にもなってください」
すらりと立つそのオマワリさんは、ヒト科とは対照的にすごく爽やかで清潔な雰囲気。
背が高く、細い線の身体つき。それでもきっとちゃんと鍛えているんだろう。警察だもん。
さらりと流れる髪の毛は長すぎず短すぎず、市民に好印象を与えること間違いなし。
制服がとても似合っていて、汗なんかとは縁の遠い、柔軟剤の香りでも香ってきそうだ。
それにしても、このオマワリさんも店長と同じようにヒト科のことを《浬さん》って――
「仕事があるだけいいと思えよ、ガキ」
「浬さんを宥めるのが俺の仕事って言うんですか。こんな大人のオモリとかマジ勘弁~」
「オイ、てめぇ。最後素が出てんぞ。やんのかコラ」
心底嫌そうな顔を惜しげも無く晒して左手をひらりひらりと振るオマワリさんに、今にも突っかかっていきそうなヒト科。
見た目も気持ちの温度もまるで相反するふたりを、わたしは交互に観察するしかできない。
「河原を走ってたお年寄りが交番に来て言ってきたんですよ」
「あ?」
「若い男女がちちくりあって――…じゃなくて喧嘩してるって」
「ちちくりあいも喧嘩もしてねぇっつうの。あ、でもちちくりあいは今から――」
「ハイ、浬さんセクハラで逮捕。」
確かに、決して人通りが少ないわけじゃない河原の傾斜で男女ふたりが「嫌だ」「いいじゃねぇか」の押し問答をしていたら、そりゃあ注目の的になる。
しかも目撃したのがお年寄りとなれば、それは通報されても仕方ないだろう。

