「バイト帰りか? 頑張るねぇ」



よいしょっと。――身体を起こし胡座をかいたヒト科は、ポケットから煙草を取り出して紫煙を空に燻らせた。


夕暮れの朱に溶けてしまいそうなその背中に、わたしはハヤテ号のスタンドを下ろして停めて歩を進める。

そうして空いている左隣りに腰掛けると、ヒト科はその垂れ目を少し見開いた気配がした。



「こんなところで何してんの」



体育座りをして隣へ声をかける。抑揚のない冷たい声だったと思う。

だけどヒト科は、そんなわたしを見て一笑した。秋の景色に似合う、そんな顔。







「墓参り。行ってた。」



予想外の答えに思わず顔を向けると、日の沈みかける紺藍の空に向けてヒト科はぽつり呟く。



「秋分の日はだいぶ過ぎちまったけど。アイツらのこと、敬おうと思ってな」



先程から、風に乗って微かに香るものがあると思っていたけれど。きっとそれは、ヒト科がお墓参りに行った際に焚いたお香だったのだろう。



「んで、この酒は奴らへの手土産だ」



ヒト科は無造作に置かれてあった一升瓶を手繰り寄せて持ち上げると、左右にぶらぶらと振ってみせた。




――コイツは時々、普段からは想像できないような切なさを纏う。


わたしの知らない、ヒト科の過去を知るひとたちが眠るお墓。

一体どんなひとたちで、コイツとどんな付き合いをしてきたんだろうか。


大きな身体で、その瞳で、どんなものを見てきたのか――






「いろは。」



ちゃぷん、と音をたてる茶色い大きな瓶を見るわたしの胸中など露知らず。







「付き合え。」



ヒト科は、ニヤリと悪戯な顔を見せた。