緑の傾斜に寝そべるその姿に、わたしはどうも見覚えがある。


相も変わらずボサボサヘアーの黒髪。飽きもせずだるだるな服装とボロい健康サンダル。

そして内側から滲み出るだらしなさとやる気のなさが隠しきれていないのだ。


さらにその姿の傍らに、日本酒の一升瓶がどーんと置かれているのを認めてしまえば。



「……………。」



思わず白眼を剥いてしまいそうで、ペダルを漕ぐ足を止めた。



いやいやいやいや。ちょっと落ち着こうか、いろは。こんなところにアイツがいるはずないじゃない。

わたしのザ・勘違いかもしれない。ザ・早とちりかもしれない。

っていうかむしろそれでいいじゃん!!


………いや、でもあの姿って間違いなくアイツだよね。なんでこんなところにいんの?何してんの?



って、ちょ、ちょっちょっ、いろは!!

別にアイツのことなんて気にしなくていいのよ!無視しなさい無視!


そんなことより今日は帰ってビールを飲みながらスルメ食べるんでしょう!!?





そうだ、ビールとスルメが待ってる。さあ帰ろう。――そう気を取り直してペダルに足をかけるや否や。



「あ、お姉さんじゃーん」



にへら、と破顔して頭上に組んでいた手をひらひらと振り、声を掛けてきたのはアイツ――ヒト科だ。


見つかる前に帰ればよかった…!止まってもたもたしてないでさっさと帰るべきだった!!