「(え、ちょ、なに…っ)」



そのままわたしとヒト科の距離はどんどん近付いて、わたしはさらに狼狽える羽目になる。

近付く距離にぎゅううと固く瞳を閉じると、目の前の影が自身の顔より下に降りて行った。

と、感じたと同時に。



「ひゃっ、」



――ぬるり。

生暖かいざらりとした感覚が、自身の首筋を這う。それに思わずちいさく声をあげた。





   ヒト科が、わたしの首を舐めた。






その事実を瞬時に理解したわたしは、じわりと湧く羞恥心と怒りに耐えられず。

そして薄ら笑う奴の、首筋にかかるあたたかい吐息に。……わたしの思考は完全にぶっ飛んでしまった。

映画の上映の最中だということも、すっかり忘れてしまって。







「こンの……っ、 ド変態!!!!」

「いっ――…!!」



映画館ではまずあり得ない大きな声と、もう何度目かわからない鉄拳をごつっと奴の頭に食らわすことになる。






お陰で劇場スタッフに強制退場させられたわたしたち。

館外でサイテー!サイテー!と舐められた首筋をごしごしと拭いながら罵ってやれば。映画に触発されちゃって、とにへら笑う狼男になったヒト科に、さらに鉄拳を食らわせたのは言うまでもない。


ちなみにスクリーンの中の狼男は、女性に銀の弾丸を埋め込まれて呆気無く倒れていたそう。








      狼男を撃退せよ
 (誰かここにも、至急銀の弾丸を!)




        * imu