「なーなー、次の上映時間までどうするー?」

「………帰る。」

「どっかにメシでも食いに行くか?」

「………帰る。」

「あ、そういえばこの辺に俺の行きつけの店があんだわ。そこ行く?」

「帰るっつってんじゃん!人の話聞けよ!!」



なんで怒ってんだよー、と不平に口を尖らすヒト科。アンタのせいで恥かいたんだよ!と言ってあげたい。

わたしたちは今、映画館の近くの喫茶店にいる。





         ◆






あの後。

ギャーギャーと劇場スタッフに文句を言っていたヒト科は、館内の全視線を集めた。



『俺といろはくらいいいだろ!』

『いや、ですが……』

『じゃあさっきのガキふたりと入れ替えろ!』

『そ、それは……』

『俺といろはの折角のデートなのによおおおお!!!』

『も、申し訳ございません』

『レンジャーに会いにきた健気な俺たちの気持ちは!!?』

『申し訳ございません……』

『謝って済むなら警察はいらねぇ――『いい加減にしろこのくそガキ!!!』――ぐはっ、!』



周りのお母様方をはじめ、なんと子どもからもクスクス笑われるその場に耐えられなくなったわたしは、ヒト科を何とか宥めて(というか殴って)大人しくなったところをズルズルと引っ張った。

大柄の男を引き摺るように歩く最中ももちろん注目の的で、羞恥心を煽られるその空気のなか、足早に映画館を後にした。



――今思うと、こんな奴置いて帰ってもよかったのに。そうしなかったのは何故なんだろう。



そうしてとりあえず、近くの喫茶店に逃げ込んだのだ。