人懐こい笑みを浮かべてわたしを見つめるユウヤだかユウタだか(このくだり飽きたよ)に曖昧な笑みを返すわたし。
そんな此方の様子をオンボロな戸にへばり付いて見据える大きな瞳。不覚にもきゅんと胸が高鳴った。
「名前なんていうの?」
「へ?」
「なーまーえ」
想像すらしていなかった台詞に、きょとんと間抜け面を晒す羽目になった。
そう言えばこの間来たときもタクヤだかタクトだかに聞かれた気がする。ダレー?って。
「………いろは……です」
意味もなくもじもじとそう告げたわたしを見て、「りょーかい!いろは姉ちゃんまたなー」と口にした子どもは今度こそ踵を返し向こうへと駆けていく。
その様を呆然と見つめるわたし。
抱いたクッションをそのままに、ガタガタと音を立てる戸の隙間から向こうの様子を窺おうとした―――その刹那。
「のわッ」
「お姉さんったらダイターン」
「なななななっ、」
何がどうなったのかは分からない。分からないけれど。
――――どうやら子どもを見送って戻って来たらしいヒト科を、不覚にも押し倒す構図になってしまったらしく。

