だったんだけど。
「とりあえず俺んちに避難。」
さすがにこの声には反応した。
「は?」
「俺んちそこじゃん?」
聞き間違いかと思ったのに、どうやらそうじゃないらしい。
男が人差し指でぴっと指さした先には、建物の陰で3分の1程度だけ見える自転車屋さんの看板がある。
いや、この人は結構真面目に言ってるらしい。顔が笑ってないもん。バカなの?あ、バカなんだけど。知ってるけど、さあ。
「とりあえず嵐が止むまで俺んちに居ればいーじゃん。」
このまま歩いて帰るより安全だと思うけど?
何も言えないでいるわたしに至極尤もな理由をべらべらと喋るこの男は、なんかこう、思うところはないのだろうか。性別のこととかさ。
「よし、行くぞ。 走れ!」
「え。 あ、ちょ、ちょっと…!」
……あー、そうだね。
何も考えてないんだろうね。
というかただストレートに物事を考えて、ただ良心でうちに来いって言ってるんだろうね。
そんなことを心で呟いて溜息を吐いてから。
ハヤテ号を片手で軽々と抱き上げて走り出した、男の広い背中を必死に追いかけた。
*imu

