「全く女ってやつは…」


小さい呟きが聞こえたのは、お店の前を離れて少し走った頃。
ハンドルを握ってる彼は溜息を零し、一番マズい相手に出会った…と苦々しく続けた。


「あのー」


それは、もしかしてドンのこと?いう気持ちで声をかけると振り向いた彼は真顔で、参るよな…と同意を求めてくる。


「環に知れたら周りの連中に知れ渡るの早いぞ。あいつ今でも中学時代の部活仲間とグループライン組んでるし、今頃はそれで俺達のことを喋ってるかもしれない」


迷惑だよなぁ…と呟く彼の横顔を見つめ、うん…とか細い声を出したのはいいんだが。


(私とのことがバレるのって、そんなにマズいんだ……)


そりゃまあそうかもしれない…と気落ちし、自分は特に美人でもないし、料理上手でもないもんね…とひねくれ始める。

『執事』とか『秘書』とか呼ばれて頼りにされてた彼とは違い、図書室の隅っこで、本ばかり読んでた地味で目立たない幽霊みたいな女子だったもんなぁ…と益々自己評価を低くした。



(…まあ、足くらいはあったけど)


一応は人間だったし…といじけモードも全開。