「こら、力入れんな」

(いや、そう言われてもムリでしょう)


自分のお腹を、好きだと意識した人に診られてんだよ?カチコチに力入るに決まってるじゃん。


「葵」

(名前呼び捨ててもムリだからって……何?!)


「プハッ!」


や、やめて、脇腹擽らないで。


「力入れるのやめろ。そうじゃないと診察出来ない」


こちょこちょ…と脇腹を擽りながら訴えてくるけど。


(分かってる。分かってるけど、だからって擽らないで!)


「や、やめて」


ごそごそと爪先で脇腹掻くのやめて。
擽ったいの通り越して、体中がゾワゾワしてくる!


「ヒィ~、やめて。お願い、今泉君!」


お願いします、ともう何だか別のことをされてる様な気分にもなるんだけど。


「降参したか」

「したした。参った!」


もうお腹に力入れないからー、と叫んだら、やっと彼は指を動かすのやめてくれた。


「それでいい。じゃ大人しく診察させて」


トンと指先を鳩尾に戻し、滑らせるようにしながら軽く押さ付けていく彼。
こっちはやっと息を吐き出し、やれやれ…と全身の力を抜いた。