「葵…その事だけど」

「私のこと、もう呼び捨てにしちゃダメだよ、今泉君」


これまで通り、苗字にさん付けにしないと…と言うと、キッと目を吊り上げた彼は私の左手首を握り。


「だから、それについては話が…」

「待った」

「はぁ?」


振り返った彼は、側にいた駿ちゃんに目を向けて。


「何ですか?」


部外者は口を出すなと言いたげな感じで彼を睨み、睨まれたからには、駿ちゃんも受けて立とう的な雰囲気が窺える。


「どうでもいいんだけどさ、彼女胃が痛くて病院のベンチに寝そべってたくらいなんだ。だから、話すのは部屋に上がってからでもいいんじゃないのか?」


此処じゃ体に触る…とでも言いたそうな雰囲気で説明され、振り向いた彼にビクついた私は__。


「だ…大丈夫だから…」


此処で話をしてしまいたい。
そんな気持ちだったのに。


「バカッ!早くそれを言え!」

(ヒェー!鬼軍曹に怒鳴られたっ!)


ビクッとして目を瞑ると急に足元が軽くなる。
何が起きたのかと思い、そろりと目を開けると、目の前にはニヤつく駿ちゃんの顔が間近に見えて。


「お幸せに」

「へ?」