また後で…と手を振る相手に、ふざけんな…と小声で呟く。

環が会った相手が葵のことだと分かったのは、それから一時間以上経過した後のことだった___。




いつもの所…と環が指定したダイニングバー『弦』に行くと、彼女は既に出来上がってた。


「やっと来たの〜?」


ケラケラ笑いながら、遅かったじゃん…とグラスを振る環の背中越しでは、バーテンダーが弱り果てた顔で微笑んでる。


「一体、何杯飲んでんだよ」


まだ時間が早過ぎるだろ…と呆れながら隣に座ろうとした俺は、彼女の様子を見て、「またフラれたのか?」と囁いた。


「どうせ、また顔だけに惚れた男に言い寄られたんだろ」


それでもってスッピン見てまた「別人だ」とでも言われたのか?と余計な言葉を発すると、ドスッと鋭いパンチが飛んできた。


「イッテェ!」


何すんだ、と脇腹を押さえながら向き直れば、環はジロリと俺を睨み。


「それ以上余計なことを言わない!」


一喝するとグラスを呷り、空になったものをバーテンダーに向け、「おかわり!」と訴えてる。



(やれやれ…)