「どうぞ、お座り下さい」


低音ボイスが聞こえ、くるっと椅子を回す相手。

顔は細面で彫りが深く、少し強面だけど目尻にある皺のお陰で若干目元が優しく見え、あの今泉君の叔父さんと言われたら、うん、そうかも…という雰囲気ではある。


「望月葵さん……なるほど慢性胃炎で通院中だったんですね」


ペラッとカルテを捲りながら受診の内容を確認した医師は、パソコンの画像を眺め、椅子に座った私に向き直り、「それで、胃の調子は如何ですか?」と訊いてくる。


「お薬は三週間ほど飲み続けていらっしゃるようですけど」


重ねて言われ、ハッと我に戻った私は、「痛みもなく調子はいいです」と答えた。


「ちょっとお腹を触ってもよろしいですか?」


丸椅子に座ったままでいいですよ、と言われ、あれ?と思いつつも上着を捲る。


「…うん、お腹も硬くもないし、張りもないですね。カルテでは鳩尾に痛みもあったようですけど、それも改善されたということなら治療は終わりと見ていいでしょう」


また何かあったらお越し下さい…と言われ、上着を直しながら、はい…と返事したのはいいんだが。