「西野さん昨日はほんとごめん。俺、ついはしゃいじゃって、迷惑かけて…」

そう言って頭をさげる木嶋さんには、いつものおどけたような明るい面影はない。

あんまり真剣に謝られて、木嶋さんに対してささくれ立っていた心が嘘のように溶けた。

「木嶋さん、もういいですよ」

「でも…」

そう言って顔を上げた木嶋さんが、不安がるように口籠る。
…なんか本当に子犬のような顔をしてる。

きっと、"憎めない人"って木嶋さんのような人の事を言うんだろうなぁなんて思うと、なんだかおかしかった。

「本当に大丈夫ですから。私も強く当たっちゃってごめんなさい」

「いや本当に謝らないで!俺も石川部長に怒られて目が覚めたっていうか」

「…。」

石川部長、怒ってくれたんだ。
私の為に…?って、違う違う。

私の為とかどうとかじゃなくて、大切な部下である木嶋さんの事を思って叱ったに決まってるのに一瞬でも図々しい事を考えてしまった自分が情けなさすぎる。