「西野さん」

仕事に取り掛かろうとした所でそう声をかけられ、わかりわすく肩が竦む。

…木嶋さんだ。

どうしよう。暗かったし、すぐに隠したからそれ程は見られていないとしても、それでも
木嶋さんには私が梨架に似てるってバレてるんだった。

…それに、昨日の事もあるし気まずい。


「何ですか?」

「…え、西野さん何してんの?」


思わず書類で不自然に顔を隠しながら振り返った私を、木嶋さんがぽかんとしたような顔で見つめる。

「き、気にしないで下さい。
それで何ですか?」

「あー、うん。
ごめん、ちょっといいかな?」


ごめん、ちょっといいかな。

そう言われて連れてこられたのは、少し人けのない廊下だった。

もしまた昨日のような事になったら…と内心で焦っていたが、木嶋さんがまるで捨てられた子犬のようにシュンとした表情をしている事が分かって、気がついたらそんな不安も消えていた。