「今日はありがとう。送ってもらって食事代も払ってもらって、全然お礼にならなかったけど」
「だからなってるって。
好きな女を車に乗せて食事に行くのが嬉しくない男なんかいないだろ」
「まぁ。……え?」
湊人があまりになんて事ない事のように自然に話すから、その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
え、今、この男なんて?
「えっと、好きな女と同じ顔の私と食事に行けて楽しいって話?」
「…それ、本気で言ってんの?」
そう返す湊人の声が、
いつもよりずっと低い。
…湊人が本気で怒っている時の声だ。
ちょうどこのタイミングで信号機が赤に変わる。車が進むのが止まり、今までハンドルを持って真正面を向いていた横顔が、こちらを振り向く。
蜘蛛の糸に絡め取られるように目が反らせない。湊人と見つめ合ったまま固まる。
「ちょ、ちょっと湊……んっ!?」
そして、湊人はそのまま私に口付けた。
突然の事で頭がフリーズする。
軽く口づけられたその唇は、やがてすぐに離れた。

