5.突然の誘い


ハピーオフィスとの二回目の打ち合わせの日。

「今日はちゃんと来たわよー」

香織がしたり顔で私よりも早く待ち合わせ場所に到着していた。

「今日は、ってそれが普通なんですけどぉ」

私は軽くにらみながら香織の腕を人差し指で突く。

待ち合わせ場所はオフィスのあるS駅の改札前。

二人で歩き出すとほどなくハピーオフィスの入るビルが見えてきた。

「香織はオフィスは使ったことある?」

「私はほどんどないんだよね。友梨みたいに翻訳したり一人集中してするような仕事じゃないから」

「それもそうだね」

香織はこう見えても営業職だから会社にじっとしてることも少ない。

オフィスに入ると、香織はエントランスのカフェに目が吸い付けられていた。

「へー、いいじゃない?好きな時にここでお茶できるんだ」

「うん、私はあんまり使わないけどね」

「もったいない」

香織は表情をくしゃっと崩して首を横に振った。

それぞれの顔のパーツも小さくてキュートな香織はどんな表情をしていてもかわいかった。

受付のある二階に上がると、約束時間5分前。

とりあえず、受付だけ済ませることにする。

受付の女性はにっこりと微笑み「ソファーでお待ち下さい」と言った。

ソファーに座ると、香織が顔を近づけてささやく。

「今回うちの担当してくれる人ってどんな人?」

「柳本さんていうの」

そう言いながらカードケースから柳本さんの名刺を取り出す。

「すごいイケメンだよ」

にやっと笑って香織に言うと、香織は「へー」って顔をして笑った。

「でも、私はあの本屋王子がいるから」

「本屋王子ねぇ」

私は苦笑しながらパソコンを広げた。