『佐藤さーん、入りますね。』





看護師が部屋に入ると、ベッドには盛り上がった布団。





机には氷嚢が置かれていた。





『佐藤さん、お顔出しましょうね。』





掛け布団をそっと開けると、額に汗をかいたかなが眠っていた。





布団を外して、頬を確認する。
頬、というよりも耳から左顔面が真っ赤に膨れ上がっている。





腫れた頬を手で触るとほのかに熱い…。
額に手をやると、頬よりも熱く感じられ、持っていた体温計を脇に滑り込ませた。






汗を拭き取り、顔にマスクをはめると吸入を開始する。






「ゲホッ……ゲホッゲホッ。





ゲホッゲホッゲホゲホッ」






寝ながらも咳き込み続ける……。











数分後に吸入が終わり、測定していた体温計を確認すると、微熱……。





指につけている酸素濃度は93を指している。






微熱もあって、咳き込んでいるので酸素マスクを用意していると。







かなが起きた。








目を開けてすぐにマスクに手をかけて外し始める。





『佐藤さん、少し息苦しくなっているので、マスクをしててくださいね。』





と言い終わる前に、かなは唸りながらマスクに手をかける。






『ダメですよー。』






看護師が止めるが、かなは聞く様子がない。






「あぁ……





ぃやっ!」






『付けましょうねー』





力強く看護師がマスクをはめようとすると、かなは大きく手を振り暴れ始めた。






「ゃめてっ!!!」







何を言っても聞き入れないかなの様子が、尋常ではないと判断して看護師はナースコールする。






『佐藤かなさん、暴れてます。どなたかお願いします!
担当の佐藤先生にも連絡を!』






かなはマスクだけでなく、近くの氷嚢や点滴台までも倒し、腕に刺さっていた点滴が勢いよく外れた。






「やめてって言ってるでしょ!」





こちら側の言うことは聞く耳を持つ様子がなく、嫌だの一点張り。





応援に来た看護師もかなの体を抑えるが、なかなか抑えられない。






『かなちゃーん、どうした?』






落ち着いて入って来たのはお父さんだった。






『どうした、どうした?』






優しくベッドに座って、かなに正面から向き合う。






「やっ!あっ!アーーーーーー!!!!!」






両耳を押さえて叫ぶかな。






そこでかなの耳に異変を感じ、






『耳鼻科の先生にすぐ来てもらって!』







看護師に指示する。






PHSを取り出して、耳鼻科に連絡する。






かなに声はかけず、優しく正面から抱きしめて落ち着かせると、力が抜けたようにかなは再び眠りについた。