オペ室に入ってきた子は、もちろん小児科で入院している。担当ではないけど、私もたけるも知っている。小児のオペは外科というくくりで担当するけど、執刀は基本的には幸治さんか石川先生。
早川先生ももちろんできるが、学会に出させられることが多く、オペは少ない。



早川先生は人当たりがいいから、学会に出ないかという医局長の誘いに断れず、みんなが嫌がる学会に参加させられている感じ。そのうちたけるになるんだろうけど…。




そして患者である都築真央ちゃん7歳が、ベッドで運ばれてきた。
今にも泣きそうな真央ちゃん。
まだ執刀の先生方はそろってない。
麻酔科の先生とオペ看と私たちだけ。




『真央ちゃん、今日はよろしくね。
これからマスクをして少し眠っててね。』



優しく刺激しないように、麻酔科の先生が声をかける。
だけど、真央ちゃんの顔は口を強くつむって、目は涙が溜まり始め、今にも泣き喚きそう…。





麻酔科の先生は慌てて落ち着かせようとするけど、それが返って……





『イヤーーーーー!!!!
怖いからやらないっ!やらないったらやらないー!うわーーーーん。』




と点滴の繋がった手を大きく振り、泣き喚き始めてしまい、麻酔科の先生はあたふたしている。ベテランのオペ看二人も同じ状況。
そして三人が私たちに目で助けを求めてきた。






「真央ちゃん。」




優しく、優しく声をかける。が、全く聞こえてない。
真央ちゃんの両手をとって、私の手の中で温めるように握る。
そして片方の手で真央ちゃんの肩を優しく撫でると、ようやく落ち着いてきたのか、泣きながらも静かになってきた。






「真央ちゃん、不安だよね。怖いよね。」





自分でも落ち着こうとしているのか、口を固く締めて、涙を流した目は私を一生懸命見ようとする。





「先生もね、何度も手術したことがあって、真央ちゃんのように手術の前はとても不安になったよ。





だけどね、毎回今まで良くしてくれてた先生や看護師さんがそばにいて私を助けてくれるんだと思ったら、怖いものはなくなっていったよ。





真央ちゃんが怖かったら、先生がずっと手を繋いでてあげるから。」






話終わると既に真央ちゃんの涙は止まり、顔は明るくなっていた。





「麻酔しても、大丈夫そうかな?」




もう一度聞いてみる。






『……うん。先生……手、繋いでてね。』







「うん。」






真央ちゃんの返事が終わると麻酔科の先生が、真央ちゃんに麻酔を入れ、真央ちゃんの目はゆっくりと閉じていった。






それから少しして、幸治さんが入ってきて全ての確認を終えると、オペが始まった。