『先に本題に入ろうか』
リビングに着くなり、キッチンに向かおうとする私に進藤先生が声をかける。
「は、はい。」
幸治さんはダイニングの椅子に座る。
進藤先生はソファに座っていたので、私は進藤先生と幸治さんの真ん中ら辺まで足を進めた。
『どうかな?体調は。』
いつものようにゆっくりと私に話しかける進藤先生。
「自分ではいつもと変わりないです。
今日の吸入も、研修前と変わらないような結果でした……。」
『食事は摂れてる?』
「……いえ。オペが終わったのが15時で。結局時間なくて……。」
『じゃあ薬は?』
「薬は飲むことができました。それだけは……と思って、ゼリーと一緒に。」
『飲めたなら良かった。
ゼリーしか食べてないことは問題だけど、なかなか難しいよね。
それで、今後の研修のことだけど…』
「やりたいですっ!やらせてくださいっ。」
『うん、そうだね。そうしようと思ってる。幸治くんとも話してね。』
そう言うと幸治さんと目を合わす進藤先生。
何か重大なことを言われるのではと、身構えてしまう。
『土日は休みって聞いたよ。
その休みは、必ず家で吸入と幸治くんの診察を受けてもらいたい。』
そんなこと……か。
「分かりました。」
『そしたら、明日僕から椎名先生に連絡しておくから。』
「よろしくお願いします。
そしたら私、先にご飯とお風呂の準備しますね。」
もうこの話は終わったと安心してると……
『メシはいいから。買ってきたし。
風呂は俺がやるから、とりあえず進藤先生から診察受けて。』
うっ!だからうちに来たのか……。
『まぁ、そんなに落ち込まない落ち込まないっ!』
進藤先生に励まされながらソファに腰掛けた。
『じゃあ、胸の音聞くね。』
帰ったままのスーツ姿で、カッターシャツのボタンを少し外すと、同じようにスーツ姿の進藤先生がいつのまにか手にしていた聴診器を耳にはめて、聴診を始めた。
深くゆっくり呼吸する。
進藤先生の慎重な聴診に、まっすぐな眼差し。
恥ずかしくて見ることができず、目を背ける。
『はい、終わったよ。
まぁ、雑音もいつもの感じだよ。
たぶん、かなちゃんの肺の音を聞いてない人は…驚くかもね。』
そうだろうね、岡本先生も椎名先生もそうだったし。
『まぁ、とりあえず毎日吸入して、休みはゆっくり体を休めようね。』
進藤先生に優しく声をかけられ、研修は続けられることに嬉しく思えた。