「おせーよ涼太、遅刻ギリギリだぜ?」

教室に入り席に座る俺に
前の席に座る優斗が呆れ半分にそう言った。

「遅刻しなきゃいーんだよ」
鞄から教科書を出しながらそう返す俺に、
優斗は真っ直ぐに俺を見ながら、

「前はちゃーんと余裕もって来てたのにな」

そう、言った。

優斗の言葉に、近くの席の奴らが反応するのが分かった。

微妙な空気を裂くように、
担任が教室に入ってきた。





…前はちゃんと、

それは、芹那と一緒に登校してたから。

毎朝芹那が俺を迎えに来てたから。

だけど、今は夢の中でしか芹那に会えない。

だから、本当は一日中、
夢の中にいたい。

ずっと芹那といたい。





芹那が亡くなって、

まわりの奴らは芹那の話を避けるようになった。

いや、少し違う。

俺の前でだけ、
芹那の話を避けるようになった。


幼馴染の上、つきあっていると思われてた俺達。
そんな俺の前で芹那の話を避けるのは、
まわりの気遣いなんだろう。


だけど、優斗だけは
俺に芹那の話をふってくる。


優斗が何も知らないとかじゃない、
小学校も一緒だった優斗は、
むしろ一番、俺と芹那の事を知っていた。








(ったく、お前らホント仲いいよなー)
(さっさとつきあえばいいのに)
そう、いつも笑いながら優斗はからかうように言っていた。


担任が出席をとる。
次々と呼ばれる名前に、芹那の名前はない。

芹那が亡くなって2ヶ月、
当たり前にいた芹那がいない、
俺にとっては世界が壊れる様な非日常なのに、


俺以外の奴らの世界は

以前と何も変わらない、
いつもの日常を当たり前に送っている。


そんな現実が俺は堪らなく嫌で、
毎日吐き気がするのを必死でこらえている。



だけど、一番嫌で吐き気がするのは、



芹那のいない世界で当たり前に生きている



俺自身、だ。







君のいない世界は

こんなにも暗く冷たい―。