外に出ると冷たい風が頬を撫でる。
高く澄んだ空が気持ちいい。

「かっこよかったよ」

「…そうかな?」

「ああ、
…頑張ったな、芹那」

校舎を出て車に向かい歩く中、私の頭を撫でながらお兄ちゃんはそう言ってくれた。

「…ありがとう」

少し照れくさくて、だけどそれ以上に嬉しくて、
私は笑ってお礼を言う。

…まだまだ通いたかった。
普通の女の子として、この学校で過ごしたかった。
だけど、これ以上みんなに迷惑はかけられない。

本当はどこかで分かっていた結末。
だけど、認めたくなくて目を反らしていた。

そんな私に現実を受け止めさせてくれて、
前に進む勇気をくれたのは、
間違いなく、

涼太だ。



「芹那!!」

!!!

「涼太…」

車に乗り込もうとしたその時、
耳に届いたのは、

聞き間違えるはずがない、
世界で1番大好きな涼太の声。

「何で…、
何でひとりで全部決めちまうんだよ!」

走ってきたのだろう、
息を切らして少し苦しそうな涼太は、
そう叫んだ。

「言っただろ!
俺は何があってもお前の事好きだからって!」

!!!

(俺、何があってもお前の事好きだから。
この先もずっと芹那だけが好きだから)

それは、病気の真実を知って絶望しかなかった私に一筋の光をくれた涼太の言葉。
私に生きていく勇気を与えてくれた言葉。


「俺は芹那だけが好きなんだよ!
病気だからなんだよ!
そんなの関係ないだろ!?」

「涼太…。
でも、私…」

一度決めた思い、
涼太が大切だから、
涼太が好きだから、
だから、私は涼太と離れるって決めた。


「…私、もう何も涼太にあげられないの」

「そんなの、芹那が勝手に思ってるだけだろ?」

「え…?」

「俺が今までどんだけのモン芹那にもらってると思ってんだよ!
今だって、芹那には色んなモンもらってんだよ!」

「そんなの、私には…」

「俺は芹那がいてくれるだけでいいんだよ!
だから…、
頼むから、俺の側にいてくれよ…!」

「涼太…」

最後は掠れて小さな声だった。
それでも、絞り出すようなその声は、言葉は、
私の胸の中にストンと入ってきて、
暖かさを与えてくれた。

「私、歩けなくなって車椅子に乗るようになるよ?」

「俺が車椅子を押す」

「喋れなくなるよ?」

「気持ちを伝える手段は喋るだけじゃないだろ」

「寝たきりになるよ?」

「俺がおぶってどこにでも連れていく」

「…涼太より、
うんと早く、
死んじゃうよ…?」

「!!
…俺が、芹那の生き様
最期まで見届ける」

涙が流れる。
私の頬にも。
涼太の頬にも。

「俺はただ、芹那の側にいたいんだ」

そう言って私を抱き締めてくれた涼太の腕は小さく震えていた。

「好きだよ、芹那。
誰よりも、芹那だけが」

…涼太が好きだから、
もう涼太の側にはいちゃいけない、
そう思ってたのに…。

「私も、
涼太が好き…、大好き」




涼太の背中に腕をまわす。
暖かくて広い涼太の背中を
私はずっと、忘れない。












私は、
涼太を手離す事が出来なかった。

ごめんね、涼太―。