手すりを両手でしっかりと握り、
ゆっくりと階段を上る。

今はSHRの時間かな。
教室に近づくと少し騒がしい声が聞こえてきた。



「でも、良かったよな
入院してくれて」

……え?
入院、してくれて…?
それって……



「ぶっちゃけ迷惑だもんなー、授業は遅れるし、
何か気ぃ使うしさ」

「それに変な病気だったら何か恐いしねー」

!!
ドアにかけた手が止まる。

…これ、私の事、
言ってる…?

「芹那…!」

お兄ちゃんがドアにかける私の手を握る。
自分の手が震えているのが分かった。

迷惑、
気を使う、
変な病気だったら、恐い…、

…私、そこまで思われてたんだ…。

もう、このまま帰ろうか…


「ふざけんなよっ!!」


!!!
耳に届いたのは、
涼太の声だった。

涼太の叫ぶような声に、騒がしかった教室は水を打ったように静かになる。


「何が迷惑だよ!
何がヤバい病気だよ!
あいつはいつも頑張ってたじゃねえか!
迷惑かけないようにって自分が出来る事を最大限に頑張ってたよ!
そんなあいつに
いいよ、大丈夫だよ、
何て言っといて今さら迷惑だとか、気ぃ使うとか、
そんなの勝手過ぎるだろ!」


涼太……。

嫌われたくなくて、隣にいたくて、
涼太の事を誰にも渡したくなくて手離したくなくて、
病気の事隠して、
そして一方的に遠ざけて傷つけた。

なのに、
どうして、

そんな優しいの…?、


涙が溢れる。


クラスメートの言葉はショックだ。
だけど、

涼太の言葉が、

涙が溢れる程、嬉しい。


「…いってくるね、お兄ちゃん」

そう言った私に、
お兄ちゃんは私の涙を拭い、
優しく笑って言ってくれた。

「…ああ、ちゃんと見てるから」

「うん…!」

ありがとう、お兄ちゃん。

ちゃんと、自分で
自分の居場所に決着をつけるよ。
自分の言葉で、
みんなに思いを伝えるよ。
だから、
見ててね。


ガラッ。

ドアを開けると一斉に向けられる視線。
思わず顔が強張る。

「芹那…」

涼太と視線が合う。


今、私に勇気をくれたのは、
涼太だよ。

ありがとう、涼太。

そんな想いを伝えるように、
私は涼太に向かって笑った。