学校に着き、お兄ちゃんの運転する車を降りる。
見慣れた校舎が、
何だか途方もないような大きな物に見える。

「ひとりで大丈夫なのに」

教室に向かって歩く私の隣を
私の歩く速度に合わせてゆっくりと歩くお兄ちゃんに苦笑しながらそう言うと、
お兄ちゃんは少し怒ったような顔をする。

「駄目だ、昨日怪我したばかりなんだ。
また階段から落ちたりしたらどうするんだ」

「はーい、ごめんなさい」

私の言葉に、お兄ちゃんはフッと優しく笑う。

…ひとりで大丈夫、
なんて言いながら、
私はお兄ちゃんの存在に安心している。
昨日の片山さんの言葉、
そして何より涼太に会う事が怖かったから。

リュックひとつなんて、確かにお兄ちゃんに取りにいってもらっても良かったのかも知れない。
先生に謝るのだって、とりあえずお兄ちゃんに伝えてもらって、落ち着いてから謝りにいっても良かったのかも知れない。

だけど、私は学校に来たかった。
例え、荷物を取りにいく一瞬でも、
友達と、涼太と過ごした教室に入りたかった。


入院して、このまま学校にいく事もなく別の場所で生きていく事になったら、
私はきっと、自分の生きる意味がますます分からなくなってしまう。
それが、怖い。

だから、何か理由をつけてでも学校に来たかった。


…まさか、教室であんな事が起こっているなんて思わずに―。