次の日、朝のSHRで担任が芹那がしばらく入院する事を伝えた。
途端にざわつく教室。
昨日、芹那が階段から落ちたのを知っている奴がヒソヒソと話しているのが聞こえる。

「びっくりしたよ、何か騒がしいと思ったら久保田が頭から血ぃ流して倒れてんだぜ」

「でも最近歩くのもふらついて危なっかしかったじゃん。
そりゃ階段とか無理でしょ」

勝手な事を言う奴らに腹が立つ。
芹那がどんなに苦しんでいるかも知らずに。

「入院っていつまでですか?」

ざわつく教室の空気を裂くように、片山が一際大きな声でそう担任に問いかける。

「まだ分からないんだ。
怪我自体は対した事ないらしいんだが…」

そう言って口を紡ぐ担任に、
再び教室内はざわつき出す。

「怪我が対した事ないんなら、何で入院する訳?」

「やっぱり何かヤバい病気なんじゃ…」


ヤバい病気、
そのひと言に心臓がギュッと握り潰される。

脊髄小脳変性症、
昨日、芹那から聞いた病名が頭の中をぐるぐると回り出す。


…ヤバい病気って何だよ。
芹那は病気を受け入れて、必死に戦ってるのに、
何でそんな言い方しか出来ないんだよ。

「でも、良かったよな
入院してくれて」

!!!

はぁ…?
良かった?
何を、言ってんだよ…?

「ぶっちゃけ迷惑だもんなー、授業は遅れるし、
何か気ぃ使うしさ」

「それに変な病気だったら何か恐いしねー」



「お前ら何言って…」

「…ふざけんなよ」


優斗が言いかけた言葉を遮り、
俺は低い声でそう言っていた。

「涼太…」

「ふざけんなよっ!!」

気づいたら叫んでた。
驚いた顔で俺を見るクラスの奴ら。

「赤澤、落ち着け」

担任が近寄って諌めるように俺の肩に手を伸ばしてきたが、立ちあがりその手を振り払い叫ぶ。

「何が迷惑だよ!
何がヤバい病気だよ!
あいつはいつも頑張ってたじゃねえか!
迷惑かけないようにって自分が出来る事を最大限に頑張ってたよ!
そんなあいつに
いいよ、大丈夫だよ、
何て言っといて今さら迷惑だとか、気ぃ使うとか、
そんなの勝手過ぎるだろ!」

「だって!病気の人に面と向かって迷惑なんて言えないじゃん。
可哀想だし」

可哀想…?
片山の言葉に一瞬思考が止まる。
芹那が、可哀想だって、
同情してんのかよ…?

「涼太だって最近ずっと久保田さんに付きっきりで自由ないじゃん!
優斗だって久保田さんに遠慮して涼太を誘えないんでしょ?
それにウチら今年受験なんだよ!?
久保田さんひとりのせいでみんなが迷惑してんの!」

「俺は…!」

ガラッ

叫び声が響く中、急に開けられた教室のドア。

そこには…

「芹那…!?」

強張った表情で立ち尽くす芹那がいた。