「治らないんだって」

そう、私が言ったら、
涼太は絶望したような顔をした。

「…ごめんね、今まで黙ってて。
言っちゃうと何か、涼太との関係が壊れちゃう気がして」

「そんな事…!」

「だって、涼太私のせいで我慢してる事たくさんあるでしょ?」

「何だよそれ…?」

「涼太、私が病気になって歩くのがぎこちなくなっちゃってからバスケしてないよね。
それって、私を送っていかなきゃいけないからでしょ?」

「そんなんじゃ…」

「それに、私とじゃ普通の恋人らしい事も出来ないもんね」

「普通って何だよ…!」

「だって私歩けなくなるんだよ?
そしたら普通のデートだって出来ない。
その内普通に話す事も出来なくなっちゃう」

私の言葉に、涼太の顔が益々絶望に染まるのが分かった。
それでも私は言葉を続ける。

「寝たきりの彼女なんて何も楽しい事なんてないよ。
辛いだけだよ。
涼太、きっと嫌になる。
私の事、ウザいって、邪魔だって思う」

「そんな事ある訳ないだろっ!!」

「…やっと、私の事真っ直ぐ見てくれたね」

私の言葉にハッとしたように私を見る涼太。

「…涼太、私が治らないって分かってから全然私の事見てなかった」

「…芹那、ごめ…」

「謝らないで」

涼太の言葉を遮りそう言った私を、
涼太は驚いた顔で見る。

「誰だってそうだよ。
治らない病気なんて知ったら同情とか色んな感情でちゃんと顔を見れないと思う。
そんな風に見られたくなくて嘘ついてたの。
悪いのは私だよ。
だから、謝らないで」

「芹那…」


…ずっと涼太といたかった。
普通の女の子として、涼太の隣にいたかった。
誰にも渡したくなかった。
涼太の隣も、
涼太の事も。

ずっとずっと、
涼太の特別になりたかった。
涼太をひとりじめしたかった。

だけど、
今の私には涼太の隣にいる資格はないのかも知れない。

涼太の特別になる資格も、
涼太をひとりじめする資格も、

今の私には、ないんだ。

歩けなくなって、話せなくなって、寝たきりになってしまう、
そして、
そんな自分を惨めに思って、
涼太に思いっきりぶつかっていける片山さんに醜い嫉妬をしてしまう私には。


「…涼太、私もう、
涼太の隣にはいられない」


私の世界から1番鮮やかな色が
消えていくのを感じた。