真っ白な壁、
真っ白な天井、
真っ白なベッド。

何もかも真っ白な部屋で、
芹那は力なく笑った。

「ごめんね、迷惑かけちゃって」

「迷惑とかそんな事思ってねぇよ」

言いながら言葉が少し震えているのが分かった。
握った手は汗ばんでいる。

良くなる事はない

さっきの医者の言葉が頭から離れない。

「…驚いたよね、中山先生の言葉」


俺の思いを見透かすようにそう言った芹那は、
やっぱり悲しそうに笑っていた。

「筋力が弱まるだけとか、嘘なんだ」


「…え?」

芹那のひと言に、
時間が止まったような気がした。




「脊髄小脳変性症、
それが私の病気」

聞いた事ない病名に、
俺はただ、芹那を見る。

「何か、脳が萎縮するとからしくて。
段々、歩くのも立つのも難しくなっちゃうんだって。
言葉も話せなくなって、最後は寝たきりになっちゃうみたい」

何、言ってんだ…?
歩くのも立つのも難しくなる?
話せなくなる?
寝たきりに、なる?

「薬やリハビリで病気の進行を遅らせる事は出来るんだけど……」

そこまで言うと芹那は言葉に詰まったように口を閉じた。

良くなる事はない

また、医者の言葉が頭の中で繰り返される。


「…治るんだよな?」

言いながらドクドクと心臓は痛いくらいに音を立てる。
背中には冷たい嫌な汗が流れる。
芹那が口を開こうとした瞬間、
俺は芹那から顔を背けてしまった。
…芹那が何を言おうとしてるのか、
分かっていたから。


「涼太、私ね…」

言うな、
言うなよ……


「治らないんだって」




世界が崩れる音が聞こえた。












なぁ芹那、
俺、今凄く後悔してるよ。
あの時、芹那から顔を背けてしまった事。

何でちゃんとお前の顔を見て聞いてやれなかったのか。


ごめんな、芹那。