「んじゃ、しつれーします」

担任との話が終わり、急いで芹那の待つ教室へ向かう。

「涼太ー!」

途中後ろから呼ばれて振り向くと、
同じクラスの片山がいた。


「何だ片山か」

「何だはないでしょー?
今から帰るの?だったら一緒に帰ろうよ」

「芹那待たしてっから」

「久保田さんなら帰ったよ」

「は?んな訳ねーじゃん」

「えー、でもひとりで帰ってるのみたよ?
久保田さんもひどいよねー、普段あれだけ涼太の事振り回しといて、ちょっとの時間待つ事もせずに帰るとかさー」

…何言ってんだよ、こいつ。
芹那が俺を振り回す?
そんな事、絶対にない。
だって、俺が好きで芹那の隣にいるんだから。

「それよりさー、映画みにいかない?
今、面白そうなのやってんだよね。
涼太、いつも久保田さんのお守り(おもり)ばっかりで最近ろくに遊んでないでしょ?
ね、いこっ!」

そう言って俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。

…ふざけんなよ、お守りって何だよ。

「芹那が待ってるから」

片山の腕を払いのけ、そう言って教室へ向かおうとする俺を片山が引き止めてくる。

「何で涼太が久保田さんの犠牲になんなきゃいけない訳?」

「…は?」

「久保田さん、どうみたっておかしいじゃん。
クラスのみんな言ってるよ、
何か悪い病気なんじゃないかって」

ドクリ、
悪い病気、
そのひと言に、心臓が嫌な音を立てた。

「そりゃ元々幼馴染でつきあいも長いから見捨てられない気持ちは分かるけどさ、
だからって涼太が久保田さんの面倒みなきゃいけない義理はないじゃん。
ぶっちゃけみんな久保田さんには迷惑してるんだし。
久保田さんだって、空気よんでさっさと辞めるべきじゃん。
涼太の事もいい加減諦めるべきじゃん」

!!!

ガンっ!!

「…二度と、そんなふざけた事言うんじゃねーぞ」

片山を壁に押し付け低い声でそう言い放つ俺を、
片山は驚いたように目を見開いて見ていた。

「…何で!?
意味分かんないんだけど!
私ホントの事しか言ってないんだけど!」

「…お前、マジで俺を怒らせたいのかよ?」

「!!
私はただ…」



「キャー!」

片山の言葉を遮るように響く叫び声。

「お、おい!大丈夫か!」

「誰か先生呼べ!」

叫び声に続いて聞こえてくる慌てたような声に、
俺は嫌な予感がして、声がする方へ走る。




「芹那!?」

駆けつけた俺の目に飛び込んできたのは、
階段から転がり落ち、頭から血を流し気を失っている芹那だった。