「久保田は今少し筋力が弱ってしまっている。
君たちの年頃にはたまにある事らしい。
久保田本人もリハビリ等頑張っている。
だけど、学校内では危ない事もあるだろうから、みんなフォローしてあげてくれ」

新学期、朝のSHRの時に担任の先生がクラスのみんなに、
そう説明していた。
約束通り、本当の病気の名前は伏せてくれた。
だけど、先生が私を見る目は、
同情を含んでいた。



「…仕方ない、か」

「何がー?」

「わっ!?」

「あはは、びっくりさせちゃったねー」

学校が終わり、真っ直ぐに病院へ向かい、
待ち合い室の椅子に座って待っている中、
無意識に口から出た言葉に、急に後ろから突っ込みを入れてきたのは、
私の主治医の先生で、お兄ちゃんの友達の中山さんだった。

「びっくりしましたよー!」

「ごめんごめん!」

明るく笑う中山さんに、少しホッとする。
病院という閉鎖的空間の中、
中山さんの明るさに救われる人は多いんだろうな。

「今日からリハビリだねー。
とりあえずリハビリするとこにいこっか。
リハビリの先生も待ってるから」

「はい、中山先生!」

「先生?」

「だって、これから私の主治医の先生になるんだし。
ちゃんと先生って呼ばなきゃなーって」

「そっか!
芹那ちゃんに先生とか呼ばれると何か照れるなー。
いやー、昔はさ、棗が芹那ちゃんにお兄ちゃんって呼ばれてんのが羨ましくてさー!
俺兄妹いないし。
あ、何ならお兄ちゃんって呼んでくれてもいいよ!」

「あはは!」

他愛ない話で笑わせてくれる中山先生のお陰で、
緊張もほぐれてきた。


「ここだよ」
案内されたリハビリ室は広く、
たくさんの人がリハビリに励んでいた。

「えーっと…、
あ、いたいた、黒川!」

中山先生に呼ばれてこちらに近づいてきた先生は、
私の前にきて、にっこりと笑った。

「久保田芹那ちゃんね。
リハビリ担当の黒川です。
よろしくね」

そう言って真っ直ぐに手を差し出す黒川先生。

「久保田です、よろしくお願いします」

「キツい事もあるけれど一緒に頑張ろうね」

「はい」

頑張ろう、
頑張らなきゃ、

少しでも、今の私でいられるように。

少しでも、

涼太の隣にいられるように。

そして、卒業まで学校に通えるように。


病気が進行したら、
学校でも皆に迷惑をかけてしまうかも知れない。
その事を考えると、凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


だけど、私は学校に通いたい。
好きなんだ、
少し古い校舎も。
歩くと軋む廊下も。
授業中、こっそり回す手紙も。
友里や亜季と机を引っ付けて食べるお弁当や、おしゃべりをする時間も。
体育館で涼太や優斗君がバスケをするのを見るのも。

入学式、真新しい制服に身を包み、
涼太と一緒にたくさんの希望を胸にくぐった校門も。

この学校が、
私は大好きなんだ。

許されるなら、
私はこの学校にいたい。
友里や亜季と、
優斗君や涼太と、
一緒に過ごしたい。
この学校で。

学校で過ごす時間は、
私が私でいられる。
学校が、
私の居場所だから。

みんなに迷惑をかけずに済むように、
リハビリを一生懸命頑張ろう。
それが、今の私に出来る唯一の事なんだから。