「それじゃあ、決まり次第すぐ戻るから」

朝早くの飛行機で戻るために荷物を片手に父さんと母さんにそう告げる。

「ああ、慌てる必要はない。
しっかりと引き継ぎをしてからでいいから、
迷惑をかけないようにな」

「いつ帰ってきてもいいようにしておくわ」

本当はずっと芹那についててやりたいけど、
仕事に穴を開ける訳にはいかないし、
何より仲間達に迷惑はかけられない。
こっちに戻る事は了承を貰っているが、
それまでにやらなきゃいけない事はある。

「…芹那を、頼むよ」

「ああ、大丈夫だ」

昨日は芹那にとって間違いなく人生が変わってしまった日だ。
顔だけでも見てから帰ろうかと思ったが、
疲れもあってまだ寝ているだろう。
そう思い、芹那には会わずに家を出る。


「お兄ちゃん!」

門に手をかけた瞬間、耳に響いた芹那の声。

「芹那…」

振り向くと同時に、芹那が俺の胸に飛び込んできた。

「ごめんねお兄ちゃん。
昨日、いっぱい八つ当たりしちゃって…」

そう言った芹那の肩は小さく震えていた。

「私、頑張るから。
リハビリも、生きていく事も頑張るから」

突然の言葉に驚きを隠せない。
昨日はあんなにも絶望していたのに…。

胸に埋めていた顔を上げて、芹那は真っ直ぐに俺を見る。

「お兄ちゃん、言ってくれたでしょ?
何があろうと芹那の味方だって。
一緒に、頑張ってほしいって。
…すごく嬉しかった。
一緒に、頑張ってくれるって、味方だって、
そんな風に思ってくれる人がいるんだって思って、すごくすごく嬉しかった」

「…当たり前だろ?
俺は昔から芹那の味方だよ」

「…そんなお兄ちゃんだから、
私がこの先歩けなくなっても、しゃべれなくなっても
そばにいてくれるって思ったら、なんだか安心したの。
救われた。
…でも、たまに泣いちゃったりするかもだけど、
そばにいてね?
味方でいてね?」

「ああ、泣いても叫んでも、
俺はいつだって芹那のそばにいる。
何があろうと芹那の味方だ」

俺の言葉に、芹那は安心したように笑った。
その顔は、やっぱりまだ少しの悲しみを含んではいたけれど、
微かな希望も感じられる笑顔だった。









やっぱり、君は強い―。