真っ暗な部屋でひとり、ベッドに横になる。
何もする気になれない。
…もう、どうでもいい。

眠ってしまおう。
寝ている間は嫌な事は忘れられる。
そう思って目を閉じるのに、
頭の中で中山さんの言葉が繰り返される。

固く目を閉じれば、
瞼の奥には涼太の顔が浮かぶ。

…涼太。
私がこの先、歩けなくなって、食べれなくなって、しゃべれなくなって、
寝たきりになって、

…涼太より何十年も早く死んじゃうって、
そう知ったら、
涼太はどうするだろう。

…めんどくさいって思うだろうか。

私の事、
嫌いになるのかな。

「……っく」

あれだけ泣いたのに、
枯れる事のない涙がまた溢れ出す。

嫌だよ、涼太に嫌われちゃうなんて。



昨日は
もしも離れる事になっても、
なんて思ったりしたけれど、
やっぱり私、涼太の隣にいたい。
涼太の事、離したくない。


「…約束、やぶっちゃったな」

涼太の前でだけ、泣くように言われてたのに。

でも言えないよ。

病気の事、
涼太には言えない。
知られたくない。




…お兄ちゃん、辛そうな顔してた。

本当は、
味方だって、一緒に頑張ってほしいって、
その言葉、嬉しかった。
お兄ちゃんは私を、
病気になった私を見捨てない、
そう思ったら、なんだか安心できた。
なのに、あんなに叫んで泣きじゃくって、
八つ当たりもいいとこだ。

お兄ちゃんだけじゃない、
お父さんもお母さんも、すごく辛そうな顔してた。


…私、みんなを悲しませて苦しませて、
何がしたいんだろ…。






…少し風にでもあたろう、
そう思って窓を開ける。
冷たい風が頬を撫でていく。
吐く息が白い。

私の好きな冬の空気が、
痛いくらいに胸を締め付ける。

…生きてるから、寒さを感じる。


カラカラ…
「さっみー!
おっ、芹那!」

窓を開ける音、そして涼太の声が冬の空の下に響く。

「涼太…」

隣の家、
隣の窓から、涼太が顔を出す。

「なーんとなくなんだけどさ、
芹那がいる気がしてっ!」

そう言って笑う涼太に、
私の胸はさっきより痛いくらいに締め付けられている。

「それに、ちょっと気になってさ。
昨日、言ってた事」

ドクドク、
心臓が痛い。

「…変わってないよな、芹那?」

…涼太、
私、私……

「…変わって、ないよ」

口から出たのは、嘘つきの言葉。
渇いた声が私の耳に重く響いた。

「…そっか!
ならいいんだ」

…涼太の顔が見れない。

私、今、涼太に嘘ついた。

「あ、後俺もお前に言っときたい事あってさ」

「…なに?」

「…あー、あのさ、
お前昨日、俺への気持ちは変わらないって言ってただろ?
それ、俺もだから」

!!!
涼太の言葉が嬉しくて顔を見たいのに、
嘘をついた罪悪感から涼太の顔を見られない。

「俺、何があってもお前の事好きだから。
この先もずっと芹那だけが好きだから」

…涙が込み上げてくる。
嬉しさと悲しさと、色んな感情が混ざりあった涙が。

「それだけ言っときたかったんだ」

見なくても分かる、
顔を赤くして、照れたように笑う涼太の顔が。

「よしっ!
言いたい事も言ったし、風邪引く前に部屋戻ろうぜ」

「…涼太!」

部屋へ戻ろうとする涼太をひき止める。

「ん?どした?」


「…私、頑張る」

「え…?」

「ごめんね、今はこれが精一杯なの。
だけど私頑張るから。
だから、私の事、
…嫌いにならないで」


…ごめんね、涼太。
今の私はこれしか言えない。
涼太の隣にいたい、
涼太を離したくない、
そんな自分勝手で醜い独占欲に、自分で嫌になる。
だけど、


涼太の隣にいちゃ駄目なんだ、
そう、思う時がきたら、

私はあなたの手を離すから。

だから、お願い。
その時が来るまで、


私をあなたの隣にいさせて下さい。