「朝早くからごめんね」

病院に着き、待つこともなくすぐに中山さんの診察室に呼ばれた
私の前に座る中山さんの笑顔は、
いつもより少し、ぎこちない。

診察室には、お父さんとお母さん、
それにお兄ちゃんが揃っている。


「今日は、芹那ちゃんに大事な話があるんだ。
…君の病気の事だ」

ドクン
心臓が一際強く音をたてた。

「落ち着いて聞いてほしい、
君は今、
脊髄小脳変性症
という病気なんだ」


微かに抱いていた希望は、
簡単に崩れた。



「聞いた事ない病気だと思うから、まずはどういった病気か説明していく…」

「知って、ます」

中山さんの言葉を遮ってそう言った私に、
みんなが驚いた顔をしたのが分かった。

「昨日、テレビで見ました。
どういった病気で、どんな症状が出るのか。
最後は寝たきりになるって。
…治療薬も治療法もなくて、
……完治、した例はないって」

話ながら言葉が震えるのが分かった。

「自覚はあったんです。
最近、何だかおかしいって。
私が気にしてる症状と、脊髄小脳変性症の症状が似てたから、何となく、そんな気がしてた。
…ねぇ中山さん。
私、歩けなくなって、立てなくなって、
ごはんも食べれなくなって、
何も出来なくなって、
そして……

死ぬ、の?」

言いながら涙が込み上げてくる。
鼻の奥がツンと痛くなる。
息をするのも辛い。

「…芹那ちゃんの言う通り、この病気はまだ治療薬も治療法もない。完治した例もない。
だけど、投薬とリハビリで進行を遅らせる事はできる。
その間に治療薬が発明されるかも知れない。
だから、希望を捨てないでほしい」


「…芹那、医学はゆっくりだが確実に進歩している。
だから、芹那には希望を捨てずに今できる事を頑張ってほしい。
どうか、諦めないでほしいんだ…!」

そう言ったお父さんは、見たこともないくらいに辛そうな顔をしている。

私の手を握るお母さんの手は、
震えていて、今にも泣きそうな顔をしている。

お兄ちゃんは、お父さんと同じ、
今まで見たこともないくらいに辛そうで、そして泣きそうな顔をしている。


…みんなのこんな顔、はじめてみる。

「…ごめんね、
お父さんもお母さんもお兄ちゃんも、
知ってて黙ってるの、キツかったよね」

「芹那…?」

「私、治るって思ってたから。
だから、何にも考えないで
治るんだよね、とか、聞いちゃって」

「芹那…」

黙ってるの、きっときっと、
辛かったと思う。

だけど、
だけどね……

「どうして、
私なの……?」

そう言った瞬間、涙が次から次へと流れていく。

「芹那…!」

お母さんが抱きしめてくれるけど、
涙は止まらない。


「…嫌だよ、
私、まだ、17だよ!?
やりたい事、まだたくさんあるの、
やだよ、やだ…、
どうして、
どうして、私、なの…!
やだよ、やだぁ…!」


子どもみたいに泣きじゃくりながら、

私は光が消えていくのを感じた。