「涼太ー、帰ろー!」

あの日も、芹那はいつもと同じ、
授業が終わると俺のところへきて
そう言った。

「あー、悪い
俺今日バスケ部に助っ人頼まれてんだよ」

中学の時バスケ部だった俺は
高校に入ってからもたまに助っ人を頼まれていた。
特別に運動部が盛んな学校じゃないから、
部活といっても同好会に分類される。
だからちょっと他チームと試合したい時なんかに、助っ人していた。

「そっか、久しぶりにバスケしてる涼太見にいこうかなぁ」

「ああ、来いよ
久しぶりに俺の華麗なダンク見せてやるよ」

芹那が見にきてくれたら、冗談抜きで気合い入るんだよな、俺。

「んー、
…やっぱやめとく!
また今度見にいくね」

「んだよ、来ねーのかよ」

少し、いやかなりがっかりした。

「何ー?見にきてほしいのー?」

「うっせー」

茶化すように笑う芹那に
少し赤くなった顔を隠すようにぶっきらぼうにそう返す。

「照れちゃってー」

「照れてねー!」



「涼太ー、早く来いよ!
試合始まるぞ!」

俺と芹那の会話を割く様に、教室のドアから響き渡る声。

「ほら、呼んでるよ」
芹那はそう言って俺の鞄を腕に押し付けてきた。

「頑張ってね!」

「任しとけ!
気をつけて帰れよ」

「うん」

いつもと何も変わらない、
ありふれた平凡な放課後。

いつもと何も変わらない、

ありふれた芹那との会話。

「またね、涼太」

「おう、また明日な」









これが、

芹那の最期の言葉になるなんて、




思いもしなかった。