「忙しい中、時間をとらせてしまってすまないね」

「いえ」

病院の父さんの教授室。
診察の合間に父さんに呼ばれた翔太が、
父さんに促されソファーへ座る。

部屋には父さんと母さん、
そして俺と翔太。

重い空気が流れる中、
父さんが話を切り出す。


「分かっているだろうが、芹那の事で話があるんだ」

「はい」

「明日、芹那の診察日だが、
…その時に芹那に告知しようと思うんだ」

父さんの言葉に、翔太は少し驚いた顔を見せたが、
小さく息を吐き、真っ直ぐに父さんを見て、口を開く。

「僕も、そうするべきだと思います。
…今の芹那ちゃんに必要なのは、その場しのぎの希望じゃなく、どうやって今この瞬間を悔いなく生きていくか一緒に考えていく事が必要だと思いますから」

「ああ、そうだね。
まずは私達家族が、病気を受け入れ、
芹那の支えになっていこうと思う。
…このまま、病気を隠したままの状態だと、
私も芹那の目を、ちゃんと見れないんだ」

…そう、芹那の病気が分かってから、
俺達は真っ直ぐに芹那を見れないんだ。
俺達の言葉を信じている芹那の目は、
このままではいけないと教えてくれた。

「…私も、朝芹那に
治るんだよね、って聞かれて、
あの子の顔、見れなかったわ。
それじゃ駄目なのよね。
これからあの子を支えていかなきゃいけないのに、
あの子に隠したままなんて」

最後まで告知を反対していた母さんも、
芹那のために、まずは自分が病気を受け入れると覚悟したようだ。

自分の病気を知り、
芹那がどれだけのショックを受けるのか、
それを考えると正直、告知する事はまだ怖さが残る。

だけど、それじゃ駄目だ。
芹那のために、
俺はもっと強くならなければいけない。
これからの芹那を、
守り、支えて、
少しでも芹那が笑って生きられるように。

そのために…、

「俺、こっちに戻るから」

そう言った俺に、
3人は驚いた顔で俺を見る。

「戻るって…、仕事はどうするんだ?」

心配そうに聞いてくる父さんに、
向こうの事務所で受けていた案件は有休取る前に全て解決済みな事、
ちょうどこっちの事務所で働いている者が向こうの事務所に異動したいと言っているため、
事務所との相談の上、今時期を調整中だと説明する。

いずれはこっちに戻る予定ではあった。
それが少し早くなっただけの事。


今は芹那の近くで、
芹那のために、生きたい。


それだけだ。