「芹那に、ちゃんと病気の事伝えよう」

初詣から戻り、家族揃っての夕食を終え、
芹那が風呂に入ってる間に、俺は父さんと母さんにそう切り出す。

「何を、言ってるの…?
そんな芹那を傷つけるような事、言える訳ないでしょう…?」

「芹那を傷つけないために、今伝えるんだよ」

「何言ってるの!
あの子はまだ17歳なのよ!?」
こんな、
治らないなんて…
受け入れられる訳ないでしょう!」

悲痛な叫び声をあげる母さんは、
今にも泣き出しそうな顔をしている。

「…どうして、そう思うんだ?」

張りつめた空気の中、父さんが静かにそう聞いてきた。

「…芹那は17だ。
だからこそ、今伝えるべきだと思ったんだ」

17歳という、2度と戻らない芹那の青春を、
芹那に悔いなく生きていってもらうために。
その場しのぎの希望じゃなく、
病気を受け入れ、理解し、
病気と向かい合い、生きていくために服薬とリハビリを行う。
そのためには、やっぱりまずは俺達家族が病気を理解し、受け入れる事の大切さ、
そして、芹那にもちゃんと全てを伝え、受け入れてもらう事が大事だと、
そう、俺の気持ちをぶつけるように話した。

「俺は芹那を傷つけたくないなんて言いながら、
本当は俺が傷つきたくなかったんだ。
俺が、病気を受け入れられなかったんた。
だけど、本当に芹那のためを思うなら、
やっぱりこの病気を伝えて、受け入れてもらわなきゃいけないんだ。
医学は少しずつ進歩している。
もしかしたら、特効薬や治療方が見つかる可能性だってゼロじゃない。
だから、芹那にはその場しのぎの希望じゃなく、
未来への希望をもって生きてほしいんだ」


俺の話を、父さんと母さんは静かに、
だけど、真っ直ぐに俺を見ながら聞いていた。


「…私は、芹那に本当の事を話せなかった」

静かな空間に小さく落ちてきた父さんの声。

「医者になって何度告知したか分からない。
その時、患者に対して希望を持つように、
決して諦めないで、
一緒に頑張りましょう、
そう言いながら心のどこかで私があきらめているところがあった」

苦しそうな父さんの声が部屋に重く響く。

「医者になったばかりの頃は希望しかなかったのにな。
どんな病気でも、必ず諦めない、
必ず治してみせる、
必ず助けてみせる、ってな。
だが現実を知れば知るほど、医者に出来る事など限られている、
医者は万能じゃない、
そう、いつしか私自身が諦めていたんだ。
だが、
…勝手だと言われようが、
私は芹那の事は、諦めたくない…!」

「父さん…」

「透子、もう一度考えよう。
芹那のために」

父さんの言葉に、
母さんは泣きながら頷いた。