「告知はしないのか?」

翔太とふたり、初詣のため神社へ向かっている中
飛び出した翔太の言葉。

翔太とふたりで会うのは、病院で芹那の検査結果を聞いた日以来だ。

「…いきなりそれかよ」

「大事な事だからな」

「…言っただろ、告知はしない。
芹那はまだ17だ。
今、芹那に告知するのはあまりにも酷だ」

治る病気なら真実を話した上で、
本人も納得してリハビリに励むのがいいかもしれない。
だけど、
芹那の病気は今の医学じゃ
どんなにリハビリに励んでも、薬を飲んでも治らない。


「今、芹那に必要なのは希望と支えだ。
現実を話しても、芹那は受け入れられない」


「…本当にそれ、芹那ちゃんのためになるのか?」

「…どーいう意味だよ」

「17歳だからこそ、真実を教えるべきなんじゃないか?」

「何、言ってんだよ…?」

17歳だからこそ、言えないんだ。
まだ子どもの芹那に、
この病気の現実は到底受け入れられるはずがない。

「お前なら分かってるだろうけど、
この病気は個人差はあれど進行する病気だ。
今は歩けても、いつ歩けなくなるか分からない。
1年後かも知れないし、5年後かも知れない。
今まで当たり前に出来てた事が毎日毎日少しずつ出来なくなっていく。
…そうなってからはじめて真実を突き付けたら、
その方が芹那ちゃんにとって酷じゃないのか?」

!!!

翔太の言葉に足が止まる。

父さん母さんとも話し合った。
その結果告知はしない、
そう決まったんだ。

だから父さんは病気の事は全て伏せて芹那に伝えた。


「確かに後から真実を知るのも芹那にとっては酷だ。
だけど、芹那はまだ17なんだよ。
高校生活が人生でどれだけ大事か分かるだろ?
そんな大事な時を悲観して過ごすなんて芹那にとってはどれだけ辛いか…。
芹那の気持ちを考えたら言える訳ないだろ」

「それって、何の優しさ?」

「…何、言ってんだ…?」

「芹那ちゃんはまだ17だけど、もう17なんだよ。
いきなりは無理でも、俺は芹那ちゃんなら受け入れられると思ってる。
今、その場しのぎに希望をもたすのは、本当に優しさか?
この病気は家族、それに何より本人が病気を理解して受け入れて病気と向き合っていく事が大事だ」

「それは理想論だ。
この病気を受け入れるのは簡単じゃない。
知る事によって本人にとっては…
地獄の宣告になるんだよ!」

「お前がそんなんでどうするんだよ!」

普段声を荒らげる事のない翔太の叫び声は、
悲痛に歪んでいた。

「芹那ちゃんはいずれ自分で病気に気づく。
それは明日かもしれなし、1年後かもしれない。
だけど、芹那ちゃんが気づいた時、
病気が進行して歩けなくなっていたら?
17歳だから、まだ17歳だからこそ真実を話さないといけないんじゃないか?
やりたい事がある、
やらなきゃいけない事がある、
だから話さないといけないんじゃないのか!?
17歳の、2度と戻らない大切な今を、芹那ちゃんに悔いなく生きてもらうために」

「お前は他人だからそんな事言えるんだよ!」

「!!」

酷い事を言ったのは分かってる。
だけど、止まらなかった。

「俺は芹那の兄だ、
兄としてあいつを守っていかなきゃいけないんだ!
芹那を傷つけたくない、
妹がいないお前に俺の気持ちなんて分からないんだよ!」

「そうだ、
俺は妹はいない、
だから、お前の気持ち全ては分からない。
だけど、
医者として、芹那ちゃんのためにできる事はある。
芹那ちゃんが自分らしく、悔いなく生きていくにはどうしたらいいか、一緒に考える事はできる。
棗、今お前が芹那ちゃんのためにできる事は、
お前自身が芹那ちゃんの病気を受け入れる事じゃないのか?」

芹那らしく、悔いなく…。

分かってる、
このまま病気の事を話さないままでいたら、
結局は芹那を傷つける事位。
そして、
その場しのぎの優しさ、希望が、

何十倍も芹那を傷つける事も。

「…結局、傷つきたくないのは、
俺、だ…」

「棗…」


芹那を傷つけたくない、

だけど…

「怖いんだよ、芹那に真実を伝えるのが…」

そうだ、本当は俺が怖いんだ。

芹那に現実を突き付けて、

希望を失う芹那を見たくない、

悲しみ、苦しみ、泣く芹那を、

見たくないんだ。



「…棗、芹那ちゃんは強いよ。
何ていってもお前の妹だ。
いきなりは無理でも、
芹那ちゃんなら必ず病気を受け入れられる。
生きていく事を、絶対に諦めたりなんかしない。
そんな子だよ、芹那ちゃんは」

「…そうだな」

芹那に真実を伝える、

だけど、その前に、

「まずは俺が、病気を受け入れなきゃいけないな…」

どうしても受け入れられなかった、
だけど、
芹那のために、

まずは俺達家族


病気を受け入れなきゃいけないんだ。