夕食前、私は部屋でアルバムを作る。
机の上にはこの間のクリスマスパーティーや海へいった時の写真が広がっている。

涼太と一緒に過ごす10回目のクリスマス、
そして、恋人としては初めてのクリスマスだった。

自分用と涼太用に2枚印刷した写真をそれぞれのアルバムに貼っていく。
その時の気持ちも必ずひと言添えて。

アルバムの最初のページを見返すと、
そこにはまだぎこちなくて距離を少しおいた私と涼太が写っている。
写真の下には、まだ子どもの私の字が並んでいる。

【ママと涼太君のママに言われてはじめて涼太君と写真をとりました。
涼太君は、ひとりぼっちでいた私にいっしょに遊んでやるといってくれました】

…そう言えば、涼太最初は乱暴にそう言ってきたんだよね。
だけど、その時の涼太の顔は真っ赤で。
凄く、凄く嬉しかったのを覚えてる。

それから涼太は本当に私と一緒に遊んでくれた。
昔から明るくてスポーツ万能でクラスの中心にいた涼太が私と仲良くしてくれたおかげで、私も少しずつクラスに馴染めて友達が増えた。

「…いつの間にか、好きになってたなぁ」

何が理由とかそんなの分からない。
いつも一緒にいてくれた。
楽しい時も、嬉しい時も、
悲しい時も、ツラい時も、
いつだって涼太が隣にいてくれた。

涼太がいたら、私は笑えるんだ。




コンコン
「芹那、入るよ」

アルバムを見ながら昔を思い出している中、
ドアをノックする音が部屋に響く。
そして聞こえてきたお父さんの声。

「うん、いいよ」

家族といえ、必ずノックしてこっちの返事を聞いてから入ってくるお父さん。
子どもの私を尊重してくれているようで嬉しい。

「勉強してたのか?」

机に向かっていた私にそう聞いてくるから、
何だか少し申し訳ない。

「ううん、アルバムまとめてた」

「ああ、芹那と涼太君のアルバムだね」

横から覗いてくるお父さんからは微かに消毒の匂いがする。


「この間のクリスマスパーティーの写真か」

「うん、もう10回目なんだよ、
涼太達と一緒に過ごすの」

「もうそんなになるのか」

「早いよね。
これからもずっと一緒に過ごしたいな」

「!!
…そうだね」

「今年はお兄ちゃんも一緒で嬉しかったな。
去年はお兄ちゃんいなくて、ちょっと寂しかったし」

「棗もだが、芹那もまだまだ棗離れが出来そうにないな?」

「いいの!
あ、でもお兄ちゃんに彼女が出来たり結婚したらやっぱり離れちゃうのかな?
ってか、お兄ちゃん今彼女いないのかな?
クリスマスも私達や友達と過ごしたし」

「どうかな?
棗からはそんな話は聞かないけど」

「前の彼女と別れてから2年位?
せっかくモテるのに」

「棗は芹那が大事だからなぁ」

「私のせい!?
あ、じゃあ私が早くお嫁にいけばいいんだ!」

「!!
…あまり早くお嫁にいかれちゃうと、お父さんが寂しいな」

「あはは!
じゃあまだまだこの家にいようかな」

「ああ、そうしてくれ」

「あ、お父さん何か用事あったんじゃないの?」

医者として日々忙しくしているお父さんとは、ふたりでゆっくり話す事は少ない。
だから、こうしてふたりでゆっくり話せるのが嬉しくて
つい話し込んじゃったけど、
お父さん、何か私に用事があるから部屋にきたんだよね?

「…この間、病院で検査を受けただろう?
その結果が出てね。
芹那、最近フラついたり転んだり、少し指先に力が入らないみたいだね」

お父さんにそう言われて、心臓がドクリと大きく動いた。

「…うん」

正直、検査を受けた日から不安が続いた。
だけど、今日はそんな気になる症状は出てないし、
涼太とも普段通り過ごせたし、バスケも出来た。
だから、やっぱりただの考えすぎだって、
そう思ってた。

「検査の結果をお父さんも見たんだ、
芹那は今、ちょっと筋力が弱まっているみたいだね」

「筋力、が…?」

「ああ、芹那の年頃の子にはたまにあるんだよ。
ただ、だからと言って放っておいたらいけないんだ。
弱まっている筋力を鍛えるために、リハビリと薬の服用はしなきゃいけない」

「リハビリって…」

「難しく考える事はない、
ちょっと筋力を鍛えるだけだ。
ちゃんとしたリハビリはお正月が明けてからになるけど、家でも簡単に出来るリハビリは今日から始めよう」

「…リハビリして、薬飲んだら
治るんだよね?」

「!!
…ああ、だからさっそく今日から始めよう」

お父さんは優しく笑って頭を撫でてくれる。

「そっか、分かった。
良かったー!
…実はちょっと不安だったんだ。
最近、フラついたり物落としちゃったりが多くて」

そんな症状も、筋力が弱まってるって言われたら
なるほど、なんて思えた。

「お父さんがついててくれたら何も心配ないね!」

「…ああ、お父さん、芹那のリハビリにとことんつきあうからな」

「えー、お父さんの専門は心臓でしょ?
それにお父さんにはたくさんの患者さんが待ってるんだから、無理しなくていいよー」

「大丈夫だ、お父さん、
芹那が嫌だって言ってもつきあうからな」

そう言ったお父さんが、




少し、悲しそうな目をしていたように見えたのは、

私の気のせいかな―。