「ただいまー!」

「遅い」

「お兄ちゃん!?」

イルミネーションを見て芹那の家へ一緒に戻ると、
玄関には不機嫌そうに立っている棗兄がいた。

「お兄ちゃん、帰れたんだ?」

都会にある会社で働いている棗兄はお盆と正月以外は中々帰って来れない。
だから毎年のクリスマスパーティーも、
転勤で都会に引っ越してからは棗兄はいつも不参加だ。

「貯まった有休消化しろって言われてな。
つーか、遅いんだよ。
人様の妹をいつまで連れ回してんだよ、もう門限過ぎてんだろーが」

そう言って俺を睨み付ける棗兄。
いつもなら棗兄の芹那に対するシスコン振りにげんなりするけれど、
今はまたこうして棗兄のシスコン振りを見れて嬉しい気持ちもある。


…前の世界で、俺は棗兄に八つ当りしたままだったな…。



「聞いてるのか、涼太?」

「え?
あー、聞いてる聞いてる」

「お前ちゃんと聞いてないだろ。
そんな奴にウチの芹那は渡せねぇな」

「何でそんな話になるんだよ!
つーか、門限過ぎてねーし!」

「アホか、よく見ろ」

「19時…3分って!
たった3分じゃん!」

「もー、止めてよお兄ちゃん!
せっかくのクリスマスパーティーだよ?
ほら、涼太早く上がって」

芹那の言葉に俺と棗兄は言い合いを一時中断して、
芹那の後に続いてリビングへと入る。

「おかえり、芹那。
いらっしゃい、涼太君」

「おかえりなさい、芹那ちゃん。
ちょっと涼太!あんたまた棗君や芹那ちゃんに迷惑かけてるんじゃないでしょうね!?」

「何でだよ!?
少しは自分の息子を信用しろよ」

キッチンで食事の盛り付けをしていた俺と芹那の母親達は、
俺達を見て手を止めて出迎えてくれる。

「ただいま、私も手伝うね」

そう言ってコートを脱ぎ手を洗う芹那に、俺の母親は目を細めて笑う。

「いいのよー、せっかく棗君も帰ってるんだし、
兄妹ゆっくり過ごしてて!
涼太は放っといていいから!」

「よくねぇよ!」


「何言ってんのよ!
滅多に帰って来れない棗君が帰ってるのよ!
それに見なさい!
棗君と芹那ちゃんの美男美女ぶり!
ふたりが並んでるだけで母さんは癒されるのよ!
こんなに可愛い芹那ちゃんが、どうしてあんたと…。
生まれた時からイケメンの棗君を見て育ったんだから、芹那ちゃんの美意識は優れてるはずなのに…」

「どーいう意味だよ!
大体自分の顔を見てから言えよ!」

「どーいう意味よそれ!」



ギャーギャーと言い合う俺と母親を見て笑う芹那と芹那の母親。

それからすぐに父親達も帰ってきて、毎年恒例のクリスマスパーティーを楽しんだ。

今年は去年までと違って
俺と芹那がつきあって初めてのクリスマスイブって事で、
棗兄が不機嫌だったり(俺に対してだけ)、
お互いの両親は大喜びだったりと、いつも以上に賑やかなパーティーになった。







「今年も楽しかったなー」

食事も終わって、俺と芹那はふたりで芹那の部屋で過ごす。
棗兄は両親達と飲んでる内にやけ酒になり(俺に芹那をとられたとか言って散々絡まれた)、
気をきかせてくれた芹那の両親が、俺達をこっそり2階の芹那の部屋へ上げてくれた。


「そうだ、
涼太これ!」

手には綺麗にラッピングされた物。

「クリスマスプレゼント!」

にこにこと笑いながら差し出してくる芹那から、
プレゼントを受けとる。

「ありがとな、
開けていい?」

「いいよー」

芹那の返事に、俺はなるべく綺麗に包装紙を剥がす。

「リュックじゃん!」

中からは俺が愛用しているスポーツブランドのリュック。

「涼太、今通学に使ってるリュックボロボロになってきたって言ってたでしょ?」

「そうなんだよ、中の小分けのポケットとかこないだ破れたし。
マジで嬉しいわ、ありがとな!」

俺の言葉に嬉しそうに笑う芹那に、
今度は俺からプレゼントを渡す。


「俺からはこれな」

差し出したのはラッピングされた小さな箱。

「あ、開けてもいい?」

少し遠慮がちにそう言って俺を見る芹那に、どうぞと返す。
芹那はゆっくりと丁寧に包装紙を剥がしていく。

「わぁ…!」

それは、星をモチーフにしたネックレス。
ぶっちゃけアクセサリーの事とかよく分からない俺は、
恥を忍んで優斗に頼んで買い物につきあってもらった。
店員はそれは丁寧に根気よく俺の話から芹那の好みを推測して、いくつか選んでくれた。

その中から、
俺が1番、芹那に似合うと思った物を選んだ。

昔から芹那は空を見上げるのが好きで、
夜は一緒に星空を眺めた。
星に詳しくて、たくさんの星座をいつも楽しそうに話してくれた。
その時の芹那は、
夜空に輝く星に負けない位に、キラキラと輝いていた。

「キレー…!」

そう言ってネックレスを見つめる芹那。

「つけていい?」

「もちろん」

少し恥ずかしくて真っ直ぐに芹那を見れない。


「どうかな…?」

そう言われ芹那を見ると、
芹那は顔を赤くして、恥ずかしそうに笑いながら俺を見る。

「…似合ってんじゃね?
ほら、馬子にも衣装的な?」

恥ずかしくてついそんな言葉を返した俺に、
何よそれー!
と少し頬を膨らませて怒りながら、
芹那は俺に飛び付いてきた。

「…ありがとう涼太。
すっごく嬉しい」

「…うん、俺も嬉しい」

つきあって初めてのクリスマスプレゼント、
今までとは違って特別な物にしたかった。


顔を上げて俺を見る芹那と視線が合う。

そのまま俺達は、




2回目のキスをした。






来年も再来年も、

この先の未来、ずっとずっと、


こうやって芹那とクリスマスを過ごせますように。




そう、心の底から祈っていた。