「ついたー!」

電車に揺られ着いた海。

冬、しかもクリスマスイブという特別な日にわざわざ海に来る奴なんてそういないだろう。
現に今、俺の目の前には
海に向かって砂浜を走る芹那しかいない。


「おい、あんま走んなよ」

俺の言葉に立ち止まり、
ゆっくりと俺を見る芹那。


寒さで鼻と頬は赤く染まっている。

冬になると見る、
寒さで赤く染まる鼻と頬。
そんな芹那を見るのが俺は好きだったりする。

「寒いねー」

そう言って笑う芹那は、


凄く凄く、

可愛くて、愛しい。








それから俺達は手を繋いで砂浜を歩いたり、
冷たい海に手だけ浸してみたり、
絶対恥ずかしいから俺はしないと言っていた、
砂浜に字や絵を書いたり
して過ごした。





「楽しかったー!」

ベンチに座り、本当に嬉しそうに笑う芹那に自販機で買ってきた暖かい紅茶を渡す。

「ありがと」

「どういたしまして」

芹那の隣に座り、俺も缶コーヒーをひと口含む。



冬は日が落ちるのが早い。

辺りは少しずつ、夕方の空気へと変わっていく。

「そろそろ戻らないと、パーティー間に合わなくなっちゃうね」

「イルミネーションも見に行かなきゃだしな」

「それ!」



そんな事を話しながら、俺達は立ち上がらない。

それは……


「わぁ…!」


芹那の声に
俺は視線を芹那から海へと移す。

「キレイ…」

「だな…」

目に映るのは真っ赤な夕陽。

そう、この夕陽を見るまでは
俺も芹那も帰れなかった。

何度か芹那に誘われこの海に来ていた。

夏も冬も、
この場所から見る夕陽を見るのが、
俺達の恒例になっていた。


真っ赤な夕陽が海へと沈む、
それはとても綺麗で幻想的で。


「夏の夕陽も好きだけど、
やっぱり私、冬の夕陽が好きだなぁ」


ぽつりとそう言った芹那の顔は、
夕陽に照らされて、とても綺麗だと、
素直にそう思った。


俺の視線を感じたのか
芹那も俺を見る。







しばらく見つめあった後、




俺達は自然に顔を近づけ、


初めてのキスをした。












触れ合う唇から




重ね合う手のひらから





芹那の暖かさが伝わってきて








俺はこの手を離したくないと



そう、改めて


強く、強く




思ったんだ―。

















深い暗闇がもうすでに芹那をのみ込んでいる事に、




全く気づかないで―。