家に入り何も言わず階段を駆け上る。
下から母親の声が聞こえたが答える事もせず力任せに部屋のドアを閉める。


窓から射し込む少しの月明りが微かに部屋の中を灯す。

電気もつけず、俺は机から一冊のアルバムを取り出す。

(思い出だよ)

そう言って芹那は自分の分と俺の分、
2冊のアルバムを作っていた。

出会った頃からつい最近まで。
たくさんの俺と芹那が写る写真。


「芹那…」

ポツリとこぼれた言葉は
微かな月明りに溶ける。

頬を伝っていく涙がアルバムの中の
かつての俺と芹那を濡らしていく。

なぁ芹那、
どうしてだよ。

どうして、
お前だったんだ?


どうして
芹那だったんだ。

芹那が何をした?




どうして俺はあの日芹那をひとりで帰した!

どうして一緒に帰らなかった!

そしたら芹那は今も生きていた。

そしたら芹那は、

今も俺の隣で笑っていた。


どうして、
どうして…!







「何で、

何で、



死んじまったんだよ…」





とめどなく溢れては流れ続ける涙を拭う事もせず、

俺はただ写真に写る芹那を抱きしめた。






胸に残るのは後悔だけ。

どうして俺はあの日、
芹那をひとりで帰してしまったのか。


あの日、

俺がバスケをせず芹那と一緒にいたら


芹那は死なずにすんだはずだ。


もしもあの日に戻れたら、

俺は芹那を離さない。


必ず、芹那を守る。

あの事故からも、

芹那を苦しめる全てから、

芹那を守る。




だから、


だからお願いです。




どうか、
どうか、




俺をあの日に戻して。




もしもまた芹那と一緒に生きられるなら、

俺は今度こそ、

芹那を守るから。



だから、

だからお願いです。




どうか、


どうか、




俺をあの日に―。












月明りの中、


俺は叶うはずもない事を



ただ、願った。




芹那さえいたら、
もう何もいらない。


だって、
芹那のいない世界は


俺には何もなかったから。




だから

だから、なぁ芹那



もう一度、俺と一緒に―。















芹那の写真を抱きしめ、いつの間にか眠っていた。




また明日から芹那のいない、
俺にとって何もない毎日がまた始まるはず、だった。




だけど、次に目を覚ました時に



俺に信じられない事が起こる。



その事に今はまだ気付かず、

俺はただ、夢の中だけでも芹那に会いたいと願いながら

目を閉じていた。