冬は日が短い。
さっきまで青く高く澄んでいた空は、
今はもう赤い夕日に包まれようとしている。




涼太の口から出た言葉は、
掠れながらも、震えながらも、
次々と溢れてくる。


「分かってんだよ俺だって…。
だけど、今俺まで芹那のいないこの世界を認めたら
芹那の今まではどうなるんだよ…!」

久保田が亡くなって2ヶ月、
涼太は俺にもまわりにも一切、久保田の話をしなかった。

一度だけ、クラスの女子が久保田の机に花を置いた事があった。
それを見た涼太は、
何も言わずその花を捨てた。

その時の涼太の顔が、
あまりにも辛そうで苦しそうで、

その日以降、誰も涼太の前で久保田の話をする事はなかった。
「今まで、ずっと芹那がいたんだ。
芹那がいるのが当たり前だったんだ。
なのに、
なのに何で今芹那はいないんだよ…!」

せきを切ったように溢れ出た言葉は止まる事なく続いていく。

「…怖いんだ、
朝、起きるのが」

そう言って俯いていた顔を上げ、もう赤く染まる空を見上げる。

「夢なら、芹那は俺の隣にいるんだ。
いつもみたいに俺の隣で笑っているんだ」


涼太の悲痛な表情に、
俺の心臓がゴトリと大きな音をたてたのが分かった。


「…何だ、芹那、ちゃんといるじゃん、
生きてる、って。
だけど…」


そう言って涼太は手を空へと伸ばす。


「夢から覚める瞬間、
芹那は俺の手を放すんだよ。
またね、って…
そう言って消えちまう。
俺は芹那の手を掴もうと必死で手を伸ばすのに、
俺の手は芹那を掴めないんだ」


空へと伸ばしていた手を下げて、
涼太は力なく自分の両手を見つめる。


「何があろうと芹那を守るのは俺だって思ってた。
これからもずっと芹那と一緒に生きていくのが、当たり前に思ってた。
なのに、芹那は一瞬の内に俺の手を離した。
一瞬で、
…俺の前から消えてしまった」


そう言った涼太の頬から流れた涙。
俺はもう涼太の顔が見れなくなっていた。