振り上げた拳を下ろし、
項垂れたように再びベンチに腰を下ろす涼太。

…あの日、
久保田が亡くなってから涼太が毎日ここに来ていた事は知っていた。

この公園は、
涼太と久保田が昔からよく来ていた公園だから。

特に広くもなければ目新しい遊具がある訳でもない、
どちらかと言うと寂れた公園。
そのせいか今じゃ子ども達だってほとんど来ない。

だからこそ、ゆっくり話したり過ごすのにいいんだ、

そう、ふたりは言っていた。


このベンチで、
缶コーヒーやココアを飲みながら他愛もない話をしているふたりをよく見かけていた。

そんなふたりをみて、
嫉妬だとか妬みなんて感情は少しもなかった。

おかしな話だ。

俺は久保田が好きなのに。

なのに何故か、
涼太と久保田がふたりで楽しそうに、
幸せそうに過ごしている姿を見ると
嬉しかった。


ずっと不思議だった。
分からなかった。

だって確かに俺は久保田が好きだから。

初めて涼太と知り合って友達になって、
そして久保田とも友達になって。

久保田の事を好きになるのに時間はかからなかった。
そして、自分の久保田への想いを自覚するのにも時間はかからなかった。

涼太を通して見る久保田の笑顔は
可愛かった。
久保田から名前を呼んでもらえただけで嬉しかった。
久保田といるとドキドキした。
嬉しかった。

これが、女の子を好きになるって事なんだと初めて知った。

初恋だった。






だから、ふたりが幸せそうに過ごしていたら
少し位嫉妬したりしても当然だと思っていた。

なのに何故か、俺は
お互いが嬉しそうに、幸せそうに過ごしている姿をみて、


嬉しかった。
幸せだった。




(涼太は私にとって特別なの)

ナイショだと、顔を赤くして言っていた久保田は、

本当に可愛かった。


(芹那は俺にとって特別だよ)

まだ言わねぇけどな、
そう少し照れくさそうに顔を赤くして言っていた涼太を、

俺は誇らしく思っていた。



何故だろう、
ずっと不思議だった。



だけど、やっと分かった。





俺は―






「…話せないんだよ、
話したくないんだよ…!
今、俺が芹那の事話したら、
…芹那が、
消えちまいそうで…!」


絞り出すように涼太の口から出た言葉は震えていた。

俯いた顔からポツリとこぼれた涙が地面を濡らす。






そう、やっと分かったんだ。



俺は、


涼太の事が特別で大好きな久保田が、

久保田の事が特別で大好きな涼太が、

お互いがお互いを大切に想う、

久保田と涼太のふたりが、




好き、だったんだ―。