「コーヒーで良かった?」

「あぁ」

俺の返事に優斗が暖かい缶コーヒーを手渡してくる。
受けとると手の平にじんわりと暖かさが伝わる。

「久保田はコーヒー飲めなくてココアや紅茶だったよな」

そう言いながら俺の隣に座る優斗。

「…ここも、お前と久保田が昔からよく来てた所だよな」

優斗の言葉を聞きながらコーヒーを喉に流し込む。

暖かさと苦味が口に広がる。

(よくブラックなんて苦いの飲めるよねー)

俺がコーヒーを飲む度にしかめっ面をしながら言ってた芹那。


「…いつも帰りが遅いって、おばさんが心配してた。
多分、
…いや、絶対ここだろうなって思ってたよ」

優斗の言葉に俺は缶コーヒーを握り締める。

「今までなら、お前の帰りが遅くても心配なんてしなかったけど、
あの日から、
…久保田が亡くなってからは心配だっ…」

ガンッ!!
優斗の言葉を遮るように俺は缶コーヒーを座っているベンチに叩きつける。


「…下んねぇ話なら帰るわ」

そう言って立ち上がった俺に、
優斗の叫び声が降りかかる。


「いい加減認めろよ!
現実みろよ!」


「…あ?」

「久保田はもういないんだよ!
死んだんだよ!」


優斗の言葉に俺は拳を握りしめたのが分かった。

そのまま優斗の胸ぐらを掴み
拳を振り上げる。



「…殴んないの?」

俺を真っ直ぐに見ながらそう言ってくる優斗に、
俺は何も言えずに拳を下ろす。

「…何で、
殴んないんだよ」

ポツリとこぼれた様な優斗の小さな声。

「…ホントは、分かってんだろ、
何で、今、
俺を殴れなかったのか」





優斗の言葉が心臓の奥深くを握り潰す。



…あぁ、そうだ

分かってんだよ、本当は。



「殴ったら、
久保田の事、話したら、

…久保田のいない現実を認めてしまうから、
だろ」






…そう、分かっているんだ、


芹那のいないこの世界が


今、俺が生きてる現実なんだって。


だけど、それを認めたら、



もう、芹那が本当に俺の中から消えてしまいそうで、




俺は芹那の事、



何にも話せないんだ。