硬く、硬く目を瞑る。

道路の真ん中に腰が抜けたまま座っている陽に訪れたのは、永遠の闇…
ではなく、さっきまで聞こえていたつんざくようなクラクションや車のブレーキ音が嘘だったかのような沈黙だった。

不思議に思った陽はゆっくりと目を開けた。
そこには、さっきまで勢いよく走っていた車がじぶんのあと数十センチのところで止まっていた。
空を飛んでいた鳥も止まっている。
転びかけた和馬も、そのままの体勢で止まっている。
何が起こったのか、思考回路はショート寸前だった。
そこに高校生くらいだろうか、灰色のコートを着た男がやってきた。一人だけ動いていた。
なんだかその場には浮いているような、だけどなんだか懐かしいような気がしてならなかった。
陽は驚きと恐怖のあまり、口をパクパクと動かすだけで声は出なかった。
「生きたいかい?」
そう男は尋ねた。
こくっこくっ、
死にたい人間などいるわけないじゃないか、
声にはならないが態度に表す。
男は、
「そうだよね、ごめん」
と、今にも泣きそうな目で話しかける。
「今から君を助けるよ。でも1つだけ副作用みたいなのが起きるんだ。それでもいいかい?」
もちろんだとも、僕にはたくさんやりたいことだって夢だってあるんだ。
こくり、
「わかった、驚くだろうけど、辛いと思うけど、決して死にたいだなんて思わないでくれよ?」
また泣きそうな目で訴えかけるように話す。
わかったよ、そう言葉にできないのが歯がゆい。

と、思った時にはもう僕は病院のベッドだった。