百万人の愛を選ぶか、一人の愛を選ぶか〜ロボットの選択〜

ミカエラは小さく頷いた。



カイは七十歳を迎えた頃から、体調をよく崩すようになった。

もう髪は真っ黒ではなく真っ白だ。

カイはベッドの上で七十八歳になった。

「カイ…大丈夫ですか?」

カイが何度も咳き込む。その度にミカエラはカイのそばに寄り添い、骨ばった背中をさすった。カイはここ最近、まともに食事も摂っていない。

「……ミカエラ、君に言わなければならないことがある……」

咳き込んだカイの口から、血だまりが飛び出た。それがカイの体にどう影響しているのか、ミカエラは一瞬でわかった。

「……何でしょうか?」

ミカエラは震える声で訊ねる。なぜ声が震えているのか、ミカエラにはわからない。

「…………僕の初恋は、君なんだ」

予想していなかった言葉に、ミカエラの体が固まる。体中が震え、胸が締め付けられた。

「君は……ロボット。……僕は、人間…。だから、この恋を……捨てた。……捨てたつもりだった。……でも、心の奥底ではいつも……君を想っていたんだ……」

カイが小さく咳き込む。灯火が消えていくのが近い。

「君に……もう一つ、言わなければならないこと……。覚えてる?おじいちゃんが死んだ時のことを……。……怒鳴ったりして、ごめんなさい」

「あなたが、謝ることなんて何もありません!」