百万人の愛を選ぶか、一人の愛を選ぶか〜ロボットの選択〜

「……昔の夢を……見てた……」

カイは高熱に苦しそうな呼吸を繰り返しながら言う。

「……眠れない時、ミカエラは……子守唄を歌ってくれたな…。嵐が怖い時、怖い夢を見た時、ずっと抱きしめていてくれた……。ありがと……」

ミカエラはカイの頭を撫でながら、子守唄を歌った。嬉しくてたまらない。その気持ちを歌に込めて、歌った。


眠れ 星が輝く夜に
眠れ 朝が来るまで
風が頰を撫でる
穏やかな夜


ミカエラが歌うのは、何年ぶりだろう。ロボットなのでずっと歌は上手なままだ。

カイは、ゆっくりと目を閉じた。



数年が経ち、カイは五十歳になった。その頃、嬉しいニュースが家に飛び込んできた。

ガブリエラが結婚することになったのだ。しかも、ガブリエラのお腹の中には新しい命が宿っている。

「もうおじいちゃんになるのか…」

カイはそう言いながら、嬉しそうにしている。ミカエラも嬉しさでいっぱいだ。まるで自分の子どものように、ガブリエラとラファエルを育てて来たのだから。

カイの頭は、真っ黒ではなくなった。所々に白髪が混じり、顔にシワもある。

昔とは違う変化に、ミカエラの胸はまた締め付けられる。しかし、未だその胸の締め付けが何かミカエラはわからないままだった。