ふと辺りの異変に気付いた。
獰猛な肉食獣が迫っている、弱く力も無い小動物の動物的カンでそれが分かった。

「永島だ!」

ヤツがもうすぐそばまで迫っている。
しかしなんという速さだ。
地震の前兆を予知し逃げ始める動物のように、避難しなければと野性の本能が僕をせかし始めていた。

「時間がない、どうする・・・ ?」

オシッコを我慢する子供のように焦りながら僕は決断をせまった。

「よし! こうなったらぶっつけ本番だ!やってやれ!」

迷った挙句に僕の取った行動は妹を守ることではなく、
やはり自分を守る事だった。
急いで玄関から抜け出ると東の方角から生暖かい風が吹いていた。

「間違いなくこっちだ!、この風の吹く方向から永島はやって来る」

僕はそう確信した。
雲が激しく流れお月様を覆い隠したその時、大蛇のように地面を這いながらヤツはやってきた。

やはりコイツは変態であり、そして妖怪だ。
この異次元の生き物を敵にまわしちゃいけない。
僕は蛇使いのようにターバンを巻いてゆっくり大蛇に近づくと耳元でそっと
「ダンナ、いい娘が入ってやすよ」と囁いた。
すると瞬く間にいつものダラシナイ永島に変わり、うつろな目でヨダレを流し始めた。
続けて「ダンナ、暗いので足元に気をつけてこちらへ」と手招きをしながら覗き専用VIPステージへと案内した。
裏庭からコソコソと息を殺しながらお風呂場へと向かう僕とは対照的に御主人様は
鼻息も荒く、胸の鼓動で僕の部屋の窓ガラスはカタカタ音をだして揺れていた。

「ダッ ダンナ、もう少し静かにしてくださいよ、その鼻息じゃ家の中の者に見付かっちまいやす」
と何度も繰り返し注意したが興奮を抑えきれない様子の御主人様は
アンパンマンが腐って膨張したような訳の分からない顔になっていた。
きっと期待に胸を膨らませすぎて顔も膨らんでしまったのだろう。

必死の思いでなんとかお風呂場の裏までやって来ると、

そこには思わぬ先客がいた。