そんなある日の帰り道、いつものように永島君の荷物をすべて背負いながら奴の後ろを歩いていると、同じく下校途中のオカメと偶然出合ってしまった。
自分の荷物プラス他人の荷物、遠くから見れば荷物が歩いているようにしか見えないはずだ。

「僕はあなたの兄さんなんかではありません、ただの歩く荷物です」と言いたかったが
やはりそこは血を分けた兄弟である。

荷物と兄さんを見間違うはずもない。
「見て欲しくない、気付いて欲しくない、近寄って欲しくない、質問して欲しくない・・」全てが欲しくないづくしだが
世の中というものは「こうなって欲しい」と望む事は中々叶わないが「いやだ、して欲しくない」と願う事は無情にも向こうの方からスキップしながらやって来るのである。
僕を見つけて来なくてもいいのに駆け寄ってきたオカメは聞かなくてもいいのに

「お兄ちゃんなにしてるの? なんで人の荷物までかかえてるの? 
どうして小学生から背が伸びないの?」 
・・・と最後のセリフは言わなかったが一番聞かれたくない事を平気でいった。

思わず「それは言わない約束!」と僕は自分でも意味不明な言葉を発していた。

だが永島も後方の歩く荷物の異変に気付いたらしく、咄嗟に「オカメちゃん違うんだよ、僕等はいつもカス・・・カッ カスオ君と帰り道ジャンケンをして負けた方が荷物を持つようにしてるんだよ、今日はたまたま君の兄さんが負けてしまったんだよ」と鮮やかな嘘でその場をしのいだ。
この男、ただの格闘バカではなかった。
予想外の危うい状況に置いても話術で自分の身を守る術を見に付けている。
末恐ろしい男だ。

「な~んだ、そうなの」とオカメはあっさり納得してしまったが、オカメを見据える永島の目は明らかに変わっていた。

顔は優しく微笑んでいるがその目は鋭く見開かれ獲物を狙う肉食獣の目だった。
妹のオカメは小学6年生。ランドセルなんか背負ってなければとても小学生には見えないほど身体も発育し背も僕より高い。成長の止まった兄とこれからバツグンのプロポーションを得るであろう妹では三葉虫と白鳥ほどの差があった。

一瞬だが永島のヨダレを僕は見逃さなかった。