ちらちらと舞う雪に顔をしかめながらほとんど人のいない校舎へと入る。
すっかり静かになった廊下に上履きの擦れる音がやけに響いた。
窓の外は重たい灰色の空が広がっていて、見るだけで気が滅入る。

海野君はとうとう終業式まで学校に来ることはなかった。

まるであの日あったことは夢だったんじゃないかというくらいに滞りなく、海野君のいない世界で時間は進んだ。


冬休みに入った学校はもちろん生徒なんてほぼ居ないに等しい。
私は冬休み前最後のテストで赤点を取ってしまい補修という、不名誉極まりない理由で学校へ登校するはめになった。

大きく32、と書いてある答案をくしゃりと鞄の中へ詰め込む。


”菅原さんよりは英語の点数とかいいと思うけど?”

不意に得意げに言った海野君の顔が浮かぶ。
そうしてふっと笑ってしまった。

「ほんとだ、私海野君より英語はできないみたいだ」

小さくつぶやいた声は廊下に響くこともなく、応えてくれる人もなく。


「……うみのくん、」

呼んでみたけどやっぱり返事はなかった。